『夏が来れば思い出す~』の出だしが印象的な唱歌「夏の思い出」。夏に尾瀬へ行けば水芭蕉を見ることが出来ると思っている方が多いかもしれませんが、尾瀬で水芭蕉が咲くのは5月末~6月頭です。
そんなことも知らずに筆者は昨年の夏、水芭蕉を求めて尾瀬を訪れた苦い経験があります。「今年こそは水芭蕉を」と色々調べると「夏の思い出」の歌詞のルーツともいえる場所があることを知ります。
今日は「夏の思い出」のルーツと水芭蕉を求めて歩いた「アヤメ平」のハイキングコースをご紹介いたします。
目次
唱歌『夏の思い出』のルーツ「アヤメ平」
群馬県利根郡片品村にある「アヤメ平」は、関越自動車道沼田インターから車で約60分。尾瀬国立公園の南側、鳩待峠と富士見峠の間に位置する最高地点1,969mの高層湿原です。
湿原が空中に浮かんでいるかのように見えることから「天上の楽園」と言われています。
昭和24年、NHKのラジオ番組で「夏の思い出」が放送されたことで尾瀬は有名になり、多くの方がアヤメ平を訪れるようになりました。
尾瀬といえば「尾瀬ヶ原」が有名ですが、当時は「アヤメ平」が尾瀬の顔だったんだそうです。
アヤメ平は、かつては「天上の楽園」と言われた尾瀬を代表する湿原ですが、当時の尾瀬は木道が無く、湿原を自由に歩き回ることが出来たんだそうです。その結果、アヤメ平は荒廃してしまい、今でも復元作業が行われています。
今では殆どの方が「尾瀬ヶ原」を訪れるので、アヤメ平は知る人ぞ知るスポットになりました。
尾瀬ヶ原よりも標高が500m以上高く、360度大パノラマが広がる絶景スポットにも関わらず、水芭蕉シーズンの週末でも人がまばらです。
「アヤメ平」ハイキングコース
アヤメ平を目指す場合、2つのハイキングコースがあります。
1.鳩待峠から歩くコース
- 標高差約380m/片道約6.3km/約150分程度のコース
- 最寄りの駐車場は「鳩待峠駐車場」(駐車可能台数約120台/2500円/日・トイレ有)
2.富士見下から歩くコース
- 標高差約650m/片道約7km/約180分程度のコース
- 最寄りの駐車場は「富士見下駐車場」(駐車可能台数約30台/無料・トイレ有)
富士見下から歩くコースは、当時の尾瀬のメインロードでしたが、現在は閑散とした静かな道です。尾瀬で唯一の無料の駐車場があります。
鳩待峠から歩くコースは距離が短く、標高差が少ないので人気です。マイカー規制期間以外であれば鳩待峠まで車の乗り入れが可能なのが嬉しいポイントです。
マイカー規制の期間は以下から確認することをお勧めします。
今日は鳩待峠から歩くコースのご紹介です。水芭蕉シーズンで鳩待峠駐車場の利用が出来ないので、尾瀬第1駐車場から鳩待峠までは乗り合いバスかタクシーを利用します。
コースは以下のような流れになります。
ルート概要
- 尾瀬第1(第2)駐車場 → 鳩待峠 → 横田代 → 中原山 → アヤメ平
順を追って説明しますね
尾瀬第1(第2)駐車場→鳩待峠
マイカー規制時の最寄りの駐車場は、尾瀬駐車場です。第一、第二とあり、第一駐車場が280台。第一駐車場には250台の車を停めることができます。駐車料金はどちらも1日1000円です。
マイカー規制時は、鳩待峠までバスか乗り合いタクシーを利用します。乗り合いタクシーは頻繁に運行しているので待ち時間は殆どありません。バス・乗り合いタクシー共に料金は片道1000円です。
鳩待峠までは30分程度で到着します。売店やトイレ、自動販売機もあるので便利ですよ。アヤメ平にはトイレが無いので、トイレや水分の補充はここで済ませておきましょう
鳩待峠は尾瀬散策をはじめ、至仏山の登山口でもある尾瀬の玄関口ともいえる拠点です。殆どの人が「尾瀬ヶ原入口」から尾瀬ヶ原へ続く山の鼻を目指します。
アヤメ平の入り口は鳩待山荘裏にあるトイレの傍です。一気に人がいなくなり、静かなトレッキングが期待できそうですね。
鳩待峠→横田代
第一のチェックポイントとなる傾斜湿原「横田代(よこたしろ)」までは距離にして約3km、標高差300mを90分かけて登ります。出だしは階段から始まり、暫く登りが続きます。
景色の無い樹林帯を登り続けるので、思い描いていた尾瀬の風景は皆無です。観光名所の「尾瀬ヶ原」のように歩きやすい道ではなく、はっきりいって登山です。登山装備は必須ですよ。
横田代までは距離が長く、景色が変わりません。目印になるのは途中にある2か所の標識だけです。1か所目の標識は1.2km先にあります。
尾瀬を象徴する木道は勿論健在で、随所にあります。水芭蕉のシーズンは積雪も残っているので、状況によってはチェーンスパイクが必要になります。
目印になる2つ目の標識は2.3km先にあります。ずっと景色が変わらない山道なので、約1km前後間隔で標識があるのは大変ありがたいですよね。
暫く登り続けると景色が開けてきました。長い樹林帯の道のりの終わりです。
横田代に到着しました。この時点で標高は1860mもあります。鳩待峠と富士見峠のほぼ中間にある、尾瀬でも稀な山の上にある傾斜湿原です。
横田代は、尾瀬らしい見晴らしの良い湿原が続きます。特に圧巻なのは至仏山を望む背後の景色です。天気に恵まれていれば至仏山ドーンの絶景を拝むことが出来ますよ。
水芭蕉が木道にひっそりと咲いていました。尾瀬ヶ原よりも標高が高い場所にあるので、水芭蕉が咲く時期が少し遅いんだそうです。小ぶりな水芭蕉でした。
横田代→中原山
第二のチェックポイントとなる中原山までは距離にして約1.4km、標高差100mを30分かけて登ります。横田代を抜けると一瞬だけ樹林帯に入ります。
樹林帯を抜けると目の前に丘のような山容が見えます。チェックポイントの中原山でしょうか。暫く登りが続きそうですね。
中原山までは思っていた以上に景色が開けていて笹で覆われた見晴らしの良い道のりです。横田代までの樹林帯の道のりと比べると天国ロードです。
時々樹林帯を抜けながら、山頂に近づくにつれ尾瀬らしい湿原が所々に広がっていきます。木道にはベンチもあったりと、休憩ポイントもばっちりあります。目の前に見える樹林帯が山頂のようです。
中原山山頂に到着です。標高1968m。山頂にも関わらず景観がゼロで、笹や木々に覆われて朽ち果てた山頂標識が悲しげです。
中原山→アヤメ平
目的地のアヤメ平までは距離にして約700メートルを20分かけて歩きます。ここからアヤメ平までは下り道です。まずは樹林帯を抜けましょう。
樹林帯を抜けると一気に景色が開けます。このあたり一帯が「天上の楽園」と呼ばれる「アヤメ平」のようです。中原山山頂から目と鼻の先なのであっという間に到着です。
天上の楽園と呼ばれるだけあって、周りに遮るものが無い360度大パノラマの展望です。アヤメ平からは尾瀬ヶ原を見渡すことはできませんが、水芭蕉シーズンの週末にも関わらず、殆ど人がいないので絶景を独り占めです。
尾瀬の真ん中にあるアヤメ平からは、両端にある尾瀬を象徴する山を一望できます。北西に目を向けると日本百名山の至仏山がそびえたちます。
反対側に目を向けると、日本百名山の燧ケ岳が見えます。当日は雲で美しい山容を拝むことが出来ませんでしたが、周りを見渡すと日光連山や谷川連峰などの山々は綺麗に見ることが出来ました。
アヤメ平で最も印象的だったのが、高層湿原にある池「池塘(ちとう)」が幻想的だったことです。尾瀬ヶ原の湿原とは違った、特別な景色を拝むことが出来ます。
アヤメ平は先述の通り、木道が無い時代に湿原を自由に歩き回っていた影響で荒れた裸地になっています。今でも植生復元活動が行われていて、所々にある復元中の土留めがそれを物語っています。
アヤメ平を歩き進むとベンチが見えます。ベンチには「アヤメ平」の標識があり、このあたりまでがアヤメ平のようです。
水芭蕉を求めて散策
『夏の思い出』の歌詞のルーツともいえる場所で期待していた景色は「水芭蕉」です。しかし、周りを見渡しても水芭蕉が咲いていません。荒廃してしまった影響なのでしょうか。
本当であればこのままピストン(往復)で下山予定でしたが、水芭蕉を求め、アヤメ平の先にある富士見峠手前の分岐から長沢新道を下り、尾瀬ヶ原を目指すことにしました。
富士見田代の分岐から尾瀬ヶ原にある「竜宮」までは距離にして約4.2km、岩場を含む急な下り道を500メートル下ります。時間にして2時間近くかかる長い道のりです。
長沢新道は水芭蕉のシーズンでも積雪があるので、状況次第ではチェーンスパイクが必要かもしれません。しかも、想像以上の下り坂で悪路です。装備や脚力に自信のない方は、来た道を引き返すことをお勧めします。
尾瀬ヶ原を目指して下ること約2時間。「竜宮」のある尾瀬ヶ原手前で、突然水芭蕉の群生地が出現しました。至仏山をバックに水芭蕉が群生する、正に筆者が思い描いていた水芭蕉の景色です。
この場所はアヤメ平へ向かう人しか通らない穴場スポットで、誰も人がいませんでした。アヤメ平で水芭蕉を拝むことは叶いませんでしたが、思わぬ場所で水芭蕉を独り占め出来たので満足です。
竜宮からは尾瀬ヶ原を横断し、山ノ鼻から鳩待峠を目指します。距離にして約7.7km、約150分の道のりです。水芭蕉を見る最後のチャンスということもあり、本当に多くの観光客で賑わっていました。
尾瀬ヶ原ではピンポイントで水芭蕉の群生地がありましたが、見頃は過ぎていた印象でした。2023年は例年よりも水芭蕉の開花が数週間早かったことと、急激な気温差と霜で折角咲いたばかりの水芭蕉が枯れてしまったんだそうです。
今回のハイキングでは大幅な予定変更があり、総距離18km、約8時間のロングトレッキングになりましたが、尾瀬ヶ原をはじめ、尾瀬の主要箇所を周回することが出来て、満足のいく山行となりました。
アヤメ平を歩いてわかったこと
アヤメ平は「天上の楽園」の通りの幻想的な景色が広がる、知る人ぞ知る絶景スポットでした。アヤメ平を歩いてみてわかったことをまとめました。
まとめ
- 当時、尾瀬の顔だった「天上の楽園」と讃えられた美しい湿原
- 唱歌「夏の思い出」の歌詞のルーツともいえる場所
- 木道が無い時代に湿原が荒廃していまい、今でも復元作業が行われている
- 殆どの方が「尾瀬ヶ原」を訪れるので、アヤメ平を訪れる人は少なく、穴場
- 傾斜湿原「横田代」まではひたすら登りが続くので登山と同じ
- 水芭蕉のシーズンは積雪があり、状況によってはチェーンスパイクが必要
- 途中にある「中原山」は景観ゼロの残念な山頂
- 尾瀬ヶ原よりも標高が500m以上高く360度大パノラマが広がる絶景スポット
- 池塘が幻想的で美しく、尾瀬ヶ原とは違った特別な景色を拝むことが出来る
- 「夏の思い出」の歌詞にあった水芭蕉が見当たらなかったのが残念
- 人ゴミを避けた静かなハイキングを楽しみたい方にお勧め
尾瀬の新たな魅力を発見できる知る人ぞ知る絶景スポット
アヤメ平は、唱歌「夏の思い出」をきっかけに多くの観光客が殺到した、当時のメインスポットでした。天空に浮かぶその絶景は尾瀬ヶ原とは違った雰囲気で、尾瀬の新たな魅力を発見できること間違いなしです。
アヤメ平は、シーズン中でも人ゴミを避けた静かなハイキングを楽しみながら絶景を独り占めできますよ。
ギア
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