加藤 正幸
【大人のためのSDGs 第三回】なぜSDGsを推めた方が良いのか

【大人のためのSDGs 第三回】なぜSDGsを推めた方が良いのか

今やテレビCMや様々なメディアでも見かけるようになったSDGs(持続可能な開発目標)という言葉。名前は知っているけど何をしているのか分からないという方に向けて、日本国内でSDGsの普及・啓発に取り組んでいるチャウス自然体験学校の加藤正幸さん(NPO法人チャウス理事長)に、分かりやすく解説していただきます。

未来の暮らしに向けて私たちができることは何なのか。自然を愛するキャンパーなら絶対に知っておきたい知識を全6回の連載でお伝えします。

SDGsが話題になっている理由

2015年に国連にて採択されたSDGsですが、この1~2年で多くのメディアで紹介されるようになり、皆さんも一度は目にしたり、耳にしたことがあるのではないでしょうか?

とくにここ最近では毎日、テレビやラジオなどで、SDGsの実践的な取り組みが紹介され増々、注目が高まってきました。

TBS~SDGsプロジェクト「地球を笑顔にするWEEK」

なぜ、ここまでSDGsが注目され始めたかというと以下の点などが挙げられます。

  1. SDGsの重要性を企業が認識し始め、より積極的になった
  2. 地球環境問題に対する危機意識の高まりにより、企業だけでなく個人や若者が積極的に取り組み始めた
  3. SDGsをきっかけに多くの人や企業が協力・協働を始め、成果があがっている

一方で「SDGsウオッシュ(SDGsバブル)」という言葉も囁かれ始め、SDGsアイコンを掲げているだけで、実態を伴っていないSDGs活動も散見されています。

便利な暮らしと世界の貧困・環境問題はSDGsで繋がっている

「SDGs」は全人類が取り組むグローバル目標でありますが、問題や課題解決に向けて、先進国と開発途上国(発展途上国)が一緒になって取り組まなければ解決して行かないコトは、意外と知られていません。

たとえば私たちの身近な暮らしの中では「安価な品物」を手軽に手に入れることが出来ますが、その品物はどこの国で製造されているのでしょうか?

そしてその「安価な品物」は誰が作って、その人々はどんな暮らしをしているのでしょうか?想像してみてください。

また毎日の食卓に上がってくる、肉、魚、果物、穀物などの「食べ物」は、毎日、多くの人が購入しているにもかかわらず、途切れることなく「安価で大量」に売られています。

この「食べ物(食品)」は、どこの国で「どのように生産」されているのでしょうか?考えてみてください。

『安いモノには理由がある』

ご存知のように日本は資源が乏しい島国でもあり、世界で有数の貿易大国です。

日本の輸入の主要品目(上位5位)は、原油、LNG(液化天然ガス)、衣類、医薬品、通信機などです。中でも、私たちに身近なのは「衣類」ではないでしょうか?

財務省統計(出典)2019年~一般社団法人日本貿易会 作成図:財務省統計(出典)2019年~一般社団法人日本貿易会

図を見ると、日本に輸入されている衣類などの日用品の多くは中国をはじめ、東南アジア諸国から輸入されています。

とくに東南アジア諸国の労働者の賃金は非常に低く、日本の1/10以下という国々がほとんどです。

このように「安価な衣類」の製造に関わる人々の多くは低賃金で雇われ、品物を作っています。はたして、そんな低賃金で暮らしは成り立つのでしょうか?

また低賃金の暮らしが貧困や飢餓を生み、医療もまともに受けられず、教育も受けられない…など「負の連鎖に陥っている」ことも考えられます。

もう一つ、私たちの暮らしに身近な「食品」についても見てみましょう。

「安価で大量」に輸入されている食品はどの様に生産されているのでしょうか?

たとえば…

  • 短期間で肉を効率よく生産するために、添加物飼料を与えられ、ギュウギュウに押し込まれた家畜小屋で育てられる。
  • 遠方の海にまで漁をしに出掛け、いなくなるまで取り尽くす。
  • 短期間で効率よく実らせ、害虫などの食害にも受けにくくするために化学肥料や農薬が使われる。

大量生産・大量販売により食品の消費期限切れなども起こりやすくなり、廃棄物が多くなってしまったり、海洋資源の乱獲により生態系に悪影響を及ぼしたりするなども考えられます。

また農業や畜産業などで使用した水が、衛生環境の整っていない国々では川や湖などを汚染してしまったりするコトも現実に起こっています。

こういったことからも、世界の貧困や環境問題は現在進行形で起こり続けています。

【おしえて!かとQ】 安価な製品のおかげで豊かな暮らしができている日本のような国は、物価が上昇してしまうと暮らしづらくなるんじゃないの?

そうですね。日本の近年の経済状況や現在のコロナ禍の状況など、安価な製品のお陰で暮らしや生活が成り立っていることを考えるとすべてを否定することは出来ません…が、ただ一つ考えて欲しいことは、安価で購入することのできる製品や食べ物などは「どこからやってくるのだろう?(ラベルにある生産国を見て)そして、どんな人達が製造して、その人達はどんな暮らしをしているのだろう?(購入した金額のうち、どのくらいがその人達に渡るのか)」と、考えてから購入して欲しいと願っています。

 

安価な製品の中には、AIやロボットなどの技術革新によって、製造コストが下げられている製品もありますが、まだまだ少数ですし、そういった技術を導入できる国は全世界をみても数限られています。また安価な製品の大半は前にも述べたように、他の国々の人々が生産した製品や食べ物であるということを忘れてはいけないと思います。

 

他の国の人達の「暮らし」が成り立っていない中で、私たち自身の生活が「豊かな暮らし」なのでしょうか?もしかしたら、日本国内で生産されている安価な製品やサービスなどでも同じことになっていないでしょうか?

 

そういったコトからも、私たちが出来ることを、できる範囲で考え、行動して(変わって)いくことが『SDGsを取り組んでいく上で大切な一歩』となります。

 

「SDGs」を取り組み始める前に今一度、「本当の豊かさ(幸せ)とは?」を一人ひとりが、真剣に考えてみてはいかがでしょうか?

SDGsを推めていくために理解しておきたいポイント

前述したとおり私たちの便利な暮らしは世界の国々とつながり、現在進行形で問題は起こり続けています。「一つの目標を達成(問題を解決)したとしても、実はその『シワ寄せ』で他の目標が達成できない(問題を解決出来ない、もしくは悪化させてしまっている)」と言うこともこれまで起こっています。

ここではSDGsの個別の目標とその関係性を見ていきたいと思います。

先にも述べたとおり「SDGs」は大きく分けて『17の目標』に分類されていますが、下記の図のように「人間、豊かさ、地球、平和、パートナーシップ」という大きな分野でまとめられています。

国連広報局~SDGsのもうひとつの捉え方-5つのP図:国連広報局~SDGsのもうひとつの捉え方-5つのP

5つの分野にSDGsの個別の目標を割り当てると下の図のようになります。

SDGsの個別の目標

チェック

  • 人間(People)は貧困や飢餓など、世界の人々に関する目標
  • 豊かさ(Prosperity)は人々の生活の基盤に関する目標
  • 地球(Planet)は自然環境に関する目標
  • 平和(Peace)は平和で公正な世界を実現する目標
  • パートナーシップ(Partnership)は世界を取り巻くいろいろな問題を、あらゆる人の参加と協力によって解決していく目標

と整理することができます。

また先にも述べましたが「ひとつの目標を達成したとしても、『シワ寄せ』で他の目標が達成できない~」のは環境・経済・社会などのそれぞれの問題が複雑に絡み合っているからで、それを理解するために表現されたのが下記の図です。

チャウス SDGsウェディングケーキモデル図:ストックホルムレジリエンスセンター~「SDGsウェディングケーキモデル」

たとえば「2.飢餓」を解決していくためには「食料を確保したり、提供すれば解決できる」と言ったような単純な問題ではありません。

飢餓の起こっている地域には紛争(16.平和と公正をすべての人に)があるかもしれません。安全な水(6.安全な水とトイレを世界に)ですら確保するのが難しい場合もあります。また、そういった地域ではさまざまな病気が蔓延(3.すべての人に健康と福祉を)しているかもしれません。

解決していくためには豊かな国からの資金援助だけでなく、技術供与や技術支援「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」なども必要不可欠です。

このように個別のSDGsを達成するためにはさまざまな分野の方々が、分野を超えて協力することにより複雑に絡み合った問題(課題)を解決して行けるのではないでしょうか?

ローカルSDGsが地域を救う?

日本でも複雑化する地域の環境・経済・社会の課題をSDGsを活用して解決していく『ローカルSDGs~「地域循環共生圏」』が2018年4月環境省で提唱されました。

「地域循環共生圏」とは、各地域が足元にある地域の資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、環境・経済・社会が統合的に循環し、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方で、地域でのSDGsの実践(ローカルSDGs)を目指していくものです。

これまでも 「地産地消」「グリーンツーリズム」などの言葉で、日本の各地域で資源を活用した自立・分散型の取り組みが実践されてきた地域が数多くありますが、「地域循環共生圏」も特段新しい考え方ではありません。

これまで実践されてきた「地産地消」「グリーンツーリズム」などの取り組みを活かしつつ、その取り組みに不足していたモノ(資源)を補い、持続可能な取り組みへ転換して行くものです。

つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト図:環境省「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」

また図のようにこれまでは「地方は地方」、「都市は都市」で循環していたモノ(資源)を、広い視点に立つことで「都市から地方へ」、「地方から都市へ」、「地方から他の地方へ」、「都市から他の都市へ」と循環(連携)することで、都市と地方がお互いに支え合い持続可能な地域を構築することができます。

近年、日本では人口減少社会の到来、少子高齢化に伴う諸問題(課題)が深刻になり、待ったなしの状況です。

「ローカルSDGs」はこの様な問題(課題)に取り組むことで、将来世代への問題(課題)を先送りするだけでなく、現代を生きる私たちの便利な暮らしも維持していく(持続可能にする)ために、必要不可欠な取り組みではないでしょうか?

◆【第四回】SDGsを達成するためにはへつづく

【参考文献】
国際連合広報センターホームページ
外務省ホームページ
総務省ホームページ
農林水産省ホームページTBS系SDGsプロジェクト「地球を笑顔にするWEEK」ホームページ
NHK~SDGsキャンペーン「未来へ17アクション」ホームページ
日テレ~Good For the Planet 今からスイッチ
フジテレビ系~楽しくアクション!SDGs滅亡させない♡地球の作り方一般社団法人 日本貿易会ホームページ
環境省ホームページ~地域循環共生圏づくりプラットフォーム

紹介
ギア
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  • 加藤 正幸
  • 加藤 正幸チャウス自然体験学校代表
  • 2000年4月~2003年3月まで(独)国立赤城青年の家(現・青少年交流の家)に勤務、自然体験活動の指導・運営マネージメントを学ぶ。2002年12月チャウス自然体験学校設立し、2017年2月にNPO法人取得。理事長。
    「汗まみれ泥まみれになって・・・夢中になって活動する」ことをモットーに、現在も現場に立ち、子ども達と同じ目線になって活動しており「かとQ」の愛称で親しまれている。

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