今やテレビCMや様々なメディアでも見かけるようになったSDGs(持続可能な開発目標)という言葉。名前は知っているけど何をしているのか分からないという方に向けて、日本国内でSDGsの普及・啓発に取り組んでいるチャウス自然体験学校の加藤正幸さん(NPO法人チャウス理事長)に分かりやすく解説していただきます。
未来の暮らしに向けて私たちが出来ることは何なのか。自然を愛するキャンパーなら絶対に知っておきたい知識を全6回の連載でお伝えします。
17のグローバル目標(全世界の共通目標)
『SDGs』は17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)で構成されていますが、今回はそのグローバル目標とターゲットをより詳しくみていきましょう。
17のグローバル目標は全世界で取り組むべき、課題が大きな分野に別れ、下記の可愛らしいアイコンで解りやすく表現されています。
※イラスト:国連広報センター
それでは具体的に、どんな課題・目標が掲げられているか?一つひとつみていきましょう。
1.貧困をなくそう (No Poverty) | あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる |
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2.飢餓をゼロに (Zero Hunger) | 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する |
3.人々に保健と福祉を (Good Health and Well-Being) | あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する |
4.質の高い教育をみんなに (Quality Education) | すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する |
5.ジェンダー平等を実現しよう (Gender Equality) | ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う |
6.安全な水とトイレを世界中に (Clean Water and Sanitation) | すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する |
7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに (Affordable and Clean Energy) | すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する |
8.働きがいも経済成長も (Decent Work and Economic Growth) | 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する |
9.産業と技術革新の基盤をつくろう (Industry, Innovation and Infrastructure) | 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る |
10.人や国の不平等をなくそう (Reduced Inequalities) | 各国内及び各国間の不平等を是正する |
11.住み続けられるまちづくりを (Sustainable Cities and Communities) | 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する |
12.つくる責任つかう責任 (Responsible Consumption and Production) | 持続可能な生産消費形態を確保する |
13.気候変動に具体的な対策を (Climate Action) | 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる |
14.海の豊かさを守ろう (Life Below Water) | 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する |
15.陸の豊かさも守ろう (Life on Land) | 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する |
16.平和と公正をすべての人に (Peace, Justice and Strong Institutions) | 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する |
17.パートナーシップで目標を達成しよう (Partnership) | 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する |
このように、解りやすく目標が掲げられていますが、私達の暮らしに馴染みのない言葉や、日本で暮らす「私達の問題(課題)ではなく、他国の問題でしょ?」と、感じるもの、「言っているコトは解るけど、事柄が大きすぎて、私達の手に負えない」と感じてしまう目標もあります。
逆に「この目標だったらできそう!」とか、すでに「やっているよ!」「個人や、家族でも貢献できそう!」と言う目標もあるのではないでしょうか?
169のターゲット(達成基準)
17のグローバル目標は大まかな目標に対して、付随する169のターゲット(達成基準)はより具体的に目標が示されています。
1.貧困をなくそう (No Poverty)
例えば「1.1 2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。」とありますが、これは具体的にはどういうことでしょうか?
世界銀行は貧しさを測るための国際的な水準として1日1.90ドル(日本円で約205円)を「貧困ライン」と定めていて、それ以下で生活する人々を「貧困人口」と呼んでいます。
引用:地図で見る世界の貧困率2015年「世界銀行~世界開発指標」
図でも判るようにアフリカ地域や南アジア、カリブ海地域、中東、ヨーロッパでも見られます。
世界全体での貧困率は10.0%に達していて、実に約7億3552万人(2015年)に及びます。
3.人々に保健と福祉を (Good Health and Well-Being)
また、「3.2 全ての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000件中25件以下まで減らすことを目指し、2030年までに、新生児および5歳未満時の予防可能な死亡を根絶する。」とあります。
世界全体で5歳の誕生日を迎えることなく亡くなる子どもは年間520万人(6秒に1人、1日に約1万4,000人が命を落としている計算)で、その原因の多くは安全な水やワクチンがあれば防ぐことが出来るものです。
図:5歳未満の死亡に関するデータ2019年「unicef」
みなさんもよくご存知であると思いますが、使い終わったペットボトルキャップを集めて、リサイクル資源として活用することで、売却益が「世界の子どもへワクチンを届ける活動」をしている団体に寄付され、これまで約1億1000万人以上の多くの命が救われています。
この様に、私達の暮らしには馴染みのない目標やターゲットで「私達の問題(課題)ではなく、他国の問題でしょ?」と思われてしまうことでも、実は「知らず識らずのうちに、SDGsに貢献している」ってことも沢山あります。
そして、今話題となっている「ジェンダー」問題。SDGsでは以下のように取り上げられています。
5.ジェンダー平等を実現しよう (Gender Equality)
その中の5.4内には「各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する。」とあり、家事の分担や近年、日本で問題になりつつある「ヤングケアラー(本来、大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども)」や、5.5では女性の政治や社会参加に関するターゲットが掲げられています。
アイコンを見て「なんとなくどんな目標・ターゲットなのか判る」のが次の目標です。
12.つくる責任つかう責任 (Responsible Consumption and Production)
このターゲットは、いわゆる3R(リデュース、リユース、リサイクル)が掲げられています。
12.2 | 2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。 |
---|---|
12.3 | 2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。 |
12.5 | 2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 |
「物を大切に使い、ごみを減らす」
例)必要ない物は買わない、もらわない。買い物にはマイバッグを持参する。
「使える物は、繰り返し使う」
例)詰め替え用の製品を選ぶ。いらなくなった物を譲り合う。
「ごみを資源として再び利用する」
例)ごみを正しく分別する。ごみを再生して作られた製品を利用する。
この様に既に私達の暮らしの中に定着しているターゲットもあります。
13.気候変動に具体的な対策を (Climate Action)
このターゲットでは、いわゆる「地球温暖化」をはじめとする問題が掲げられています。
急激な気候変動により、自然災害が世界中で増えています。日本でもここ数年は気象災害が多く発生しています。また、日本政府は地球温暖化防止策の一環として「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」目標を掲げました。
具体的には再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電、水力発電など)を現在の22~24%から少なくとも45%以上に引き上げ、エネルギーミックス(さまざまな発電方法を組み合わせてまかなう方法)や、電力系統(送電線など)の仕組みの改定や拡大などが上げられます。
一見すると以下の目標と重複してしまう様に思うかもしれません。
7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに (Affordable and Clean Energy)
しかし、7のターゲットには次のようにあります。
7.1 | 2030年までに、安価かつ信頼できる現代的エネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保する。 |
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7.2 | 2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。 |
7.3 | 2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる。 |
先の13の気候変動に対する課題(問題)を解決して行くためには、7のエネルギー問題(課題)を解決しなければ解決の糸口がないと捉えることも出来ます。
この様にそれぞれの目標やターゲットの課題や問題は1つひとつが個別に掲げられている問題ではなく密接に繋がっている問題でもあります。
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13の気候変動は「地球温暖化」の問題を解決とする目標が掲げられていますが、実は違った目標にも関連しています。
「地球温暖化」によって起こる問題として「北極や南極の氷が融け出し海水面の上昇などにより島々が水没する」と言う予測がよく知られていますが、問題はそれだけではありません。
図:海面水温の長期変化傾向(全球平均)「気象庁」
海水温が上昇し海の生物に多様な影響をもたらしています。
既に沖縄近海のサンゴ礁の白化現象と消失、クロマグロ、サンマ、サケなどの魚の生息域にも影響し、漁獲量が年々減り続けている一因として「地球温暖化(気候変動)」が上げられるのではないか?と考えらています。
14.海の豊かさを守ろう (Life Below Water)
14の「海の豊かさを守ろう」には、「沿岸域の保全」や「生態系の管理と保護」に関するターゲットも掲げられ、「海の問題」を解決していくためには、13の「気候変動」を解決し、さらには「気候変動」を解決していくためには7の「エネルギー」をも解決しなければならないと言うことにもなります。
この様にSDGsで掲げている目標やターゲットはそれぞれの課題が複雑かつ密接に繋がっているとも言えます。
また、14.1では「海洋ゴミ、陸上活動による汚染防止」とあるように、日本でも最近になって話題となった「マイクロプラスチック」の海洋流出問題。私達の身近な生活でもレジ袋、ペットボトル、ストロー、食器、マドラーなどのプラスチック製品の利用に対して規制が急激に厳しくなり、不便を感じる方も多いのではないでしょうか?
図:日本周辺海域および南極から東京に至る太平洋縦断航路でのマイクロプラスチックの調査~「九州大学 東京海洋大学」共同調査
九州大学 応用力学研究所 教授 磯辺篤彦 氏が行った調査によると、図の様にマイクロプラスチックの個数は日本を含む東アジア周辺が圧倒的に多く、北太平洋の約27倍、世界の海の約16倍です。
また、日本の1人当たりのプラスチックごみの発生量はアメリカについで世界で2番めに多い国と言われています。プラスチック製品の利用に対して規制が急激に厳しくなってはいますが、待ったなしの状況でもあります。
マイクロプラスチックの海洋流出により海の生き物に対する影響だけではなく、行く末は、日常食卓に上がる魚、私達への身体へと影響を及ぼすことを考えなくてはなりません。
このように、169のターゲット(達成基準)では、より具体的な行動目標が掲げられ、17のグローバル目標より詳細に渡って示されています。
もちろん、「日本国内では問題(課題)とならない=既に目標を達成している」ターゲットもありますが、「課題を達成(解決)出来ていないターゲット」や、「より明確な行動が示されている」ので個人や家族でも課題解決に何をすべきか理解できるのではないでしょうか?
232の指標
『「SDGs」は17のゴールと169のターゲットで構成され…』と説明され、多くの人に知られていますが、更にその成果を測るために『232の指標』も示されていることはあまり知られていません。
『232の指標』は「目標を達成するために、現在の進捗状況を把握する(モニタリング・評価)」ために必要な数値を割り出し、定期評価するための指標となっています。
この『232の指標』は全世界や各国々の「SDGs」達成の進捗状況を測るものであるため、あまり一般でありませんが、この「指標を把握した上でSDGsに取り組んでいるか否か」で、本気度が判ってきます。
興味・関心のある方は調べて見てください。
「誰一人取り残さない」・・・
「232の指標」と同様にあまり示されていない言葉として『最も脆弱なところから』があります。
「SDGs」の宣言文の中ある「誰一人取り残さない」と言う言葉は基本理念で、『誰かを犠牲にしたり、誰かを取り残したうえでのSDGsの達成はあってはなりません。』
また、宣言文の中には「最も貧しく、最も脆弱な人々の必要に特別の焦点をあて~」「最も遅れているところを第一に~」「最も貧しく最も脆弱なところから~」などと、繰り返し強調されているコトからもその重要さが判ると思います。
「最も脆弱なところ=最も大変・困難なところ」ですから、SDGsの取り組みを継続し、目標を達成するには重要なポイントになりますし、可能であれば、先ず最初に「最も大変・困難なところ」から課題解決に向けて取り組むべきであると考えます。
◆【第三回】なぜSDGsを推めた方が良いの?へつづく
【参考文献】
国際連合広報センターホームページ
外務省ホームページ
総務省ホームページ
厚生労働省ホームページ
環境省ホームページ
経済産業省ホームページ
気象庁ホームページ
世界銀行ホームページ
unicefホームページ
認定NPO法人 世界の子どもにワクチンを日本委員会 ホームページ
九州大学 ホームページ
ギア
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【おしえて!かとQ】 日本の各家庭から出たプラスチックゴミは燃やして処分してるんじゃないの?どうして海洋流出するの?
日本の各家庭から出たプラスチックゴミは2017年現在、418万トン排出されています。そのうち、約83%(約347万トン)がリサイクルなどで有効活用されています。
もちろん、プラスチックゴミも燃やしていますが、これは新たな製品を作ったり、他の原材料として使えないプラスチックゴミの約61%(約253万トン)は焼却処分しています。
焼却処分したプラスチックゴミは燃やした時に発生する「熱エネルギー」を活用して発電したり、温水を作ったり、冷暖房にも利用されています。
例えば清掃センター(焼却施設)の隣接地に温水プールや日帰り銭湯などを併設して、一般市民に利用してもらっているところもよく見かけますね。
また、焼却灰もアスファルトやコンクリートの原材料として一部使われたりしています。
一方で「きちんと回収できていない」プラスチックゴミがあります。
例えば、不意の風などでプラスチック製の袋やパッケージ等が風に飛ばされてしまい、回収できない。また、ポイ捨てなどの不法投棄、自然災害による自然への流出です。
海の無い内陸地であっても風に飛ばされたり、近年の台風による河川の洪水・住宅地への浸水などにより、プラスチックゴミの流出。やがてそのプラスチックゴミは川を降り、海へと流出してしまいます。
例え、それがレジ袋1枚だとしても、川を降って行く中で破れて小さくなったり、太陽の紫外線などの影響によっても破れやすくなり、小さなプラスチックゴミとなります。これを絶えず繰り返されて行くと、人間の眼でも確認できない程、小さなちいさな「マイクロプラスチック」になってしまう訳です。