いつかは歩いてみたい世界遺産の道「熊野古道」。とはいえ、3県を跨る熊野古道は全長600km以上と距離が長くルートも様々なので、どこを歩けば良いか迷います。
そこで今日は、世界遺産「熊野古道伊勢路」で最も美しい石畳といわれる馬越峠道の古道歩きと登山の両方を楽しめてしまうという、一粒で二度おいしいコースをご紹介いたします。
目次
古道歩きと天狗岩の絶景「天狗倉山」
三重県紀北町と尾鷲市の境にある「天狗倉山(てんぐらさん)」は、紀伊山地に属する標高522メートルの山です。「東海の百山」に選定されています。
かつて山伏が修行を行っていた「修験道」と呼ばれる山岳信仰の山で、山頂には石碑や祠が祀られています。山頂に佇む「天狗岩」は天狗倉山の象徴ともいえる巨岩で、ハシゴで登ることが出来ます。
山頂標識は天狗岩の上にあり、山頂からは海と山を見渡せる絶景ポイントです。尾鷲市の街並みや大台ヶ原の山々を一望できる大パノラマが広がります。
天狗倉山の中腹には、伊勢神宮から熊野三山まで続く全長170キロの古道「熊野古道伊勢路」が通っています。尾鷲ヒノキ林に囲まれた美しい石畳が2キロ続く、熊野古道の歴史を感じられる人気のコースです。
「天狗倉山」登山コース
天狗倉山登山で最も利用されるのが、熊野古道から馬越峠を経て山頂を目指すコースです。登山口は2つあります。
鷲下登山口から登頂する
- 標高差約480m/片道約2.2km/徒歩80~90分程度
- 最寄りの駐車場は「馬越峠北側駐車場」(駐車可能台数約10台/無料・トイレ無)
馬越公園登山口から登頂する
- 標高差約390m/片道約1.4km/徒歩60~70分程度
- 最寄りの駐車場は「馬越公園駐車場」(駐車可能台数約5台/無料・トイレ有)
それぞれの登山口は熊野古道伊勢路「馬越峠道」にある世界遺産指定部分の起点と終点で、熊野古道伊勢路で随一の美しい石畳と尾鷲ヒノキ林が広がる人気の古道です。
馬越公園登山口から登頂するほうが距離は短いのですが、熊野古道の雰囲気を存分に満喫したいのであれば鷲下登山口から登頂するコース一択です。コースは以下のような流れになります。
モデルコース 標高差約480m/総距離約4.4km/コースタイム約140~160分程度
馬越峠北側駐車場→鷲下登山口→夜泣き地蔵→ベンチがある展望スポット→馬越峠→分岐→天狗岩→天狗倉山山頂→馬越峠北側駐車場
順を追って説明しますね。
最寄りの駐車場・公共交通機関
登山道の最寄りの駐車場は、紀勢自動車道海山インターから車で約5分の場所にある「馬越峠北側駐車場」です。路肩のような狭い駐車場で、駐車台数は多くて10台程度です。トイレはありません。
熊野古道歩きの観光客が多い人気スポットにも関わらず、駐車台数が少ないので満車であることが殆どです。その時は登山口から約1.5キロ離れた「ゆらゆら帯駐車場」か「まいこみ淵駐車場」を利用します。
実は登山口から約600メートル離れた場所にある「道の駅海山」の駐車場が2番目に近く、トイレもあり便利ですが、登山者利用禁止の張り紙があるので駐車できません。道の駅海山の駐車場は利用しないようにしましょう。
公共交通機関を利用する場合、JR紀勢本線「尾鷲駅」か「相賀駅」から三重交通バスに乗り、「鷲毛」バス停で下車します。登山口までは徒歩0分と目の前です。
馬越峠北側駐車場→鷲下登山口→夜泣き地蔵
鷲下登山口は馬越峠北側駐車場の目の前です。第一のチェックポイントとなる夜泣き地蔵までは距離にして約0.5km、標高差約100メートル程度を約20分かけて登ります。
馬越峠までは歴史と雰囲気のある熊野古道歩きを満喫できます。ヒノキ林に覆われた苔むした石畳の古道は、写真やポスターでよく取り上げられる正に熊野古道を象徴する景色です。
石畳が敷き詰められているのは降水量が多いこの地域ならではの事情があります。雨で道が流されないように江戸時代に紀州藩によって整備された賜物です。馬越峠の石畳の量は熊野古道随一と言われています。
途中にある夜泣き地蔵は良い目印になります。明治時代まで旅人の無事を祈る石地蔵があったとされ、いつの日か子供の夜泣き封じを祈って「夜泣き地蔵」と呼ばれるようになったんだそうです。
夜泣き地蔵→ベンチがある展望スポット
ベンチがある展望スポットまでは距離にして約0.6km、標高差約140メートル程度を約20~25分かけて登ります。直ぐ先には小川にかかる大きな一枚岩の橋があり、石畳の道が延びる人気の撮影スポットです。
紀州藩の籠の幅に合わせて設計された約2.7mの道幅は歩きやすいのですが、意外と急斜面の道のりで滑りやすく、晴れの日でも慎重に歩く必要があります。雨の日は本当に滑るので注意が必要です。
途中で馬越一里塚を通過します。当時は松と桜が植えられた旅人たちの憩いの場だったそうなのですが、現在はその面影も無く、看板しかありません。筆者も馬越一里塚に気づかず通り過ぎてしまいました。
案内板のある場所までは急こう配が続き、決して楽な道のりではありません。ずっと石畳の道が続き、少しだけ飽きてくるかもしれません。
案内板のある場所には展望スポットがあるので、久々に開放感のある景色を拝むことが出来ます。ベンチもあるので大台ヶ原を眺めながら休憩ができますよ。
ベンチがある展望スポット→馬越峠
馬越峠までは距離にして約0.5km、標高差約60メートル程度を約15分かけて登ります。この先は段々と道が緩やかになります。
石畳で覆われた熊野古道を象徴する古道が終わると歩きやすい林道に変わります。右手に杉の巨木が何本も見えてきたら馬越峠まであと少しです。太いものになると直径が4メートルもある立派な杉の木です。
馬越峠に到着です。標高は325メートル。木々に囲まれて展望はありませんが広場の様になっていて、避難小屋やベンチがあります。多くの登山者や観光客が休憩をしていましたよ。
馬越峠は様々なコースの分岐になっていて、このまま真っすぐ進むと馬越峠道終点、馬越公園へ。右へ進むと像の背で有名な「便石山」に登ることが出来ます。これから登る天狗倉山は左へ進みます。
馬越峠→分岐
ここからは本格的な登山道です。分岐までは距離にして約0.5km、標高差約150メートル程度を約20~25分かけて登ります。木の根に覆われた足場の悪い登山道と階段地獄が続く、ひたすら急登の道のりです。
天狗倉山までは距離にして600メートル程度と短いのですが、この距離で標高差を一気に200メートル程度もあげるのでハードな山行です。ここから先は登山装備必須ですよ。
容赦のない急こう配が続くのでひたすらハードな道のりなのですが、中でも分岐の手前にある荒れた階段が最も辛く、登りづらい印象です。
分岐に到着です。北コースと南コース、どちらかを選ぶことが出来ます。標識をよくみると右上に「オススメ」と、さりげなくマジックで書かれているので南コースを進みました。北コースは下山で利用しようとおもいます。
分岐→天狗岩
天狗倉山山頂までは距離にして約0.1km、標高差約20メートル程度を約5分かけて登ります。巨大な岩を迂回しながら急こう配の足場の悪い登山道をひたすら登ります。
巨大な岩に挟まれた場所に到着すると、目の前に役行者を祀る祠が見えてきます。右手にある岩が山頂標識のある「天狗岩」なのですが、左手の岩からも展望が良いので先に寄り道してみましょう。
左側にある岩は、まるで堤防のようになっています。奥には方位盤らしきものがあるので、そこまで進むことができるようです。岩は滑りやすく、しかも反対側は断崖絶壁です。落ちないように気を付けましょう。
方位盤のある場所からは尾鷲市の街並みと熊野灘を望めます。大変狭い上に断崖絶壁で高度感があります。高所恐怖症の方には居心地が悪い場所かもしれません。
どの方向にどんな山があるかが一目でわかる方位盤は便利なのですが、よりによってこんなに危ない場所に設置しなくても。と、心の中で思いました。恐怖でしかありません。
天狗岩→天狗倉山山頂
気を取り直して山頂を目指します。山頂標識は天狗岩を登った先にあるので、天狗岩に掛けられた金属製のはしごを登らなければいけません。高所恐怖症の方にとって難関が続きます。
ハシゴは思っていた以上に高度感があるので、アスレチック感満載です。慎重に登りましょう。
天狗倉山山頂に到着です。標高は522メートル。馬越峠から先はアスレチック感満載でハードな道のりです。古道歩きのついでに軽い気持ちで寄り道すると、思っていたのと違うとなるかもしれません。
天狗倉山山頂は360度とはいきませんが、解放感があり、パノラマビューが広がる絶景の山です。岩越しに大台ヶ原の山々を一望できます。
左側に視線を移すと尾鷲市の街並みと熊野灘を望めます。木々の隙間から望む形になるので、海の展望でいえば、方位盤のある場所からのほうが絶景です。
天狗岩の上は思っていた以上に広く、平たいので10人程度であれば余裕で休憩が出来そうです。とはいえ、周りに柵が無いので、あまり端っこにはいかないようにしましょう。
天狗倉山山頂→馬越峠北側駐車場
下山は同じコースを往復するピストンルートなので来た道に戻ります。まずはハシゴを降りるのですが、登りよりも怖いです。なるべく下は見ないで、慎重に降りましょう。
登りでは分岐から南コースを進んだので、下山では北コースを利用してみました。大変荒れた急こう配の登山道なうえに、道が不明瞭だったので、南コースがお勧めであることも納得です。
登り返しが無いとはいえ、苔むした石畳が滑るので下山では思っていた以上に慎重に下りる必要があります。その為、登山口まではコースタイムで約60~70分程度と、思っていた以上に時間がかかります。
駐車場がある鷲下登山口が見えてきました。馬越峠道は石畳で整備された観光道なので楽勝かと思っていましたが、想像以上の勾配と滑りやすい道なので、しっかりとした登山装備があったほうが良いと思いました。
天狗倉山に登ってみてわかったこと
天狗倉山は、世界遺産の熊野古道だけではなく、山頂からの絶景も満喫できる一粒で二度おいしい山でした。天狗倉山に登ってみてわかったことをまとめました。
まとめ
- 世界遺産熊野古道歩きと登山を同時に楽しめる
- 山頂標識のある巨岩から海と山を見渡せる絶景
- 最寄りの駐車場は駐車台数が少ない
- 道の駅海山の駐車場は登山者の利用が禁止
- 前半は熊野古道伊勢路随一の美しい石畳歩き
- 苔むした石畳は滑りやすい。下りは特に注意
- 馬越峠道は想像以上の勾配で楽勝とはいかない
- 馬越峠は様々なコースの分岐で登山コースも
- 馬越峠から山頂までは階段地獄と急登地獄
- 山頂直下の分岐は南コースに進むのがおすすめ
- 天狗岩を登るハシゴはアスレチック感満載
- 天狗岩の上は思っていた以上に広く、平たい
- 方位盤のある場所のほうが絶景。高度感がある
歴史と雰囲気のある古道歩きも楽しめる山
天狗倉山は尾鷲ヒノキ林に囲まれた美しい石畳の古道歩きや、アスレチック感満載の登山コース、天狗岩から望む解放感抜群の絶景と、登り始めから下山までイベントが盛り沢山です。
登山だけではなく、熊野古道の歴史と雰囲気のある古道歩きも楽しめるのは登山者だけの特権だと思います。標高500m程の山で、ここまで楽しめる山は貴重ですよ。
ギア
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