今やテレビCMや様々なメディアでも見かけるようになったSDGs(持続可能な開発目標)という言葉。名前は知っているけど何をしているのか分からないという方に向けて、日本国内でSDGsの普及・啓発に取り組んでいるチャウス自然体験学校の加藤正幸さん(NPO法人チャウス理事長)に、分かりやすく解説していただきます。
未来の暮らしに向けて私たちができることは何なのか。自然を愛するキャンパーなら絶対に知っておきたい知識を全6回の連載でお伝えします。
実体を伴っていないSDGs活動について
前回のコラムで「SDGs」が注目され、認知されていくと共に「実態を伴っていないSDGs活動」も現れ始めてきた事に少し触れましたが、今回はこの事について触れておきたいと思います。
SDGsバブル(SDGsウォッシュ)
出典:SDG Lapel Pins|UNDP1990年代半ばから環境配慮をしているように装いごまかしたり、上辺だけの取り組みを揶揄する言葉として「グリーンウォッシュ」と言う造語が使われ始めました。
これは環境問題への社会的な関心が高まる中で、企業が消費者らへの訴求効果を狙い、あたかも環境に配慮しているかのように見せかけた商品やサービスを、根拠を示さずに「環境にやさしい」「エコ」などという表現を使ったりしたものを示しています。
森林や海洋の写真などを使って環境に配慮したサービスを提供しているイメージを与えたりするなど、消費者に誤解を与えるものとして、環境NGOなどが批判的に訴えました。
日本では2000年に「国などによる環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」が制定され、これに伴い多くの企業がグリーン購入法に適した商品が販売され始め、私達市民も「環境に優しい商品を選ぶ」様になってきました。
このマークが商品にプリントされていたり…
最も馴染みがあるのがこのエコマークではないでしょうか?
一方で問題だったのが、法律として制定されたが故に多くの公共機関や企業が積極的にグリーン購入適用商品を購入したことで、市場原理によりあたかも環境に配慮した製品であると訴えた粗悪な商品も多く出回ってしまったことです。
本来、グリーン購入法は環境に十分配慮されて製造された商品を製造者に義務付けると共に、消費者も環境に配慮された商品を選ぶことにより、環境に留意した暮らしや生活を選択されていくためのものだったものと考えられますが、残念ながら環境などに配慮されない見せかけの商品やサービスが出回ってしまったのも事実です。
※注意:「グリーンマーク」「エコマーク」は認証機関の厳正な審査のもと、環境に配慮された商品にのみ付けれられています。安心して購入してください。
この時と同じように、SDGsも同様な傾向が見受けられています。SDGs本来の理念を理解されないまま、流行りに乗じて「私達はSDGsに取り組んでいます」などと、実態を伴わない見せかけた商品やサービス、取り組みも数多くみられます。
「SDGs」を達成するためには、このような上辺だけのSDGsの取り組みを私達市民一人ひとりが「SDGs」を十分に理解した上で見抜いて行かなければなりません。
SDGsを推進するための手法
SDGsが広く認知され、取り組みが拡がって行くにしたがい「どの様に取り組みを進めたらいいですか?」と、多くの問い合わせも頂く様になりました。
そこでご紹介させてもらうのは、ESD(Education for Sustainable Development)「持続可能な開発のための教育」と訳され、SDGsを推進していくための手法(方法)としても掲げられています。
この「ESD」は、2002年 国連「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」として2005年から2014年までの10年間、ユネスコを主導機関として国際的に取り組まれてきました。
また、2015年の国連サミットにおいては、SDGsが採択されると共に、SDGsターゲット4.7「2030 年までに持続可能な開発と持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和と非暴力の文化、グローバル市民、および文化的多様性と文化が持続可能な開発にもたらす貢献の理解などの教育を通じて、すべての学習者が持続可能な開発を推進するための知識とスキルを獲得するようにする」の中に、ESD(下線部)が掲げられているだけでなく、「ESD」はSDGsの17の全ての目標達成に寄与するものであることが、第74回国連総会においても必要不可欠であるものとして確認されています。
出典:文部科学省~持続可能な開発のための教育この様に「ESD」はSDGsを達成するための人材育成プログラムとして、日本国内ではユネスコスクールをはじめ、ESD活動支援センターや地域のNGO・NPOなどが積極的に取り組んでいます。
学び方を学ぶ教育(ESD)
ESD「持続可能な開発のための教育」はSDGsを達成するためには必要不可欠なものであることは理解出来たと思いますが、その「ESD」って具体的にはどんな教育なの?と疑問を持ってしまうと思いますので、次に「ESD(持続可能な開発のための教育)」について詳しく述べていきたいと思います。
ESD「持続可能な開発のための教育」とは、簡潔に言えば「地球規模の課題を自分事として捉え、その解決に向けて自ら行動を起こす力を身に付けるための教育」です。
全世界に広がる様々な社会問題や課題に対して「課題の解決のために必要な力、考え方、価値観を学びあいながら育み、意識を変えるにことにとどまらず、行動の変容を起こすこと」などを主体的に学び、身に付けていきます。
これまで、社会問題や課題解決に向けて「国際理解教育、人権教育やジェンダー教育、エネルギー教育、環境教育など」様々な分野でそれぞれの教育手法が確立されてきましたが、異なる教育分野に共通して存在する、学ぶべき共通項がESDのエッセンスとなります。
出典:ESD-J~ESDのエッセンスESDのエッセンスには次のようなモノがあります。
ESDで培いたい「価値観」として
- 人間の尊厳はかけがえがない
- 私たちには社会的・経済的に公正な社会をつくる責任がある
- 現世代は将来世代に対する責任を持っている
- 人は自然の一部である
- 文化的な多様性を尊重する
ESDを通じて育みたい「能力」として
- 自分で感じ、考える力
- 問題の本質を見抜く力/批判する思考力
- 気持ちや考えを表現する力
- 多様な価値観をみとめ、尊重する力
- 他者と協力してものごとを進める力
- 具体的な解決方法を生み出す力
- 自分が望む社会を思い描く力
- 地域や国、地球の環境容量を理解する力
- 自ら実践する力
ESDが大切にしている「学びの方法」として
- 参加体験型の手法が活かされている
- 現実的課題に実践的に取り組んでいる
- 継続的な学びのプロセスがある
- 多様な立場・世代の人々と学べる
- 学習者の主体性を尊重する
- 人や地域の可能性を最大限に活かしている
- 関わる人が互いに学び合える
- ただ一つの正解をあらかじめ用意しない
上記のポイントを学校の授業や市民活動などの取り組みに取り入れることが大切となりますが、解りづらく難しいのも実情で、現状では取り入れるにも教育者や指導者の育成や支援が必要とされると考えられます。
ご興味のある方は、文部科学省と環境省により設置された「ESD活動支援センター(全国センター1箇所・地方センター全国8箇所)」がESD活動の支援を行っていますので、お気軽に問い合わせしてください。
また全国各地の各分野で先進的にESD活動を取り組んでいる学校やNGO・NPOなどが「地域ESD活動推進拠点」として登録されていますので、こちらの先進的な取り組みも参考にして欲しいと思います。
SDGs実現に向けて
SDGsが採択され約6年が経過し、SDGs達成期限(2030年)まで残り9年となり、現在中間期に差し掛かっております。
これまでの取り組みの評価と、今後の取り組み改善点をまとめたモノが、2019年11月に第40回ユネスコ総会にて「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)(2020~2030年)」として採択され、同年12月の第74回国連総会で承認されました。
出典:日本ユネスコ国内委員会「ESD for 2030」とは、ESDを強化することでSDGsの達成を目指すもので、具体的な行動を示すロードマップとして以下の2つのポイントが提示されました。
優先行動分野として
- 政策の推進
- 学習環境の変革
- 教育者の能力構築
- ユースのエンパワーメントと動員
- 地域レベルでの活動の促進
重点実施領域として
- 国レベルでのESD for 2030の実施
- パートナーシップとコラボレーション
- 行動を促すための普及活動
- 新たな課題や傾向の追跡(エビデンスベースでの進捗レビュー)
- 資源の活用
- 進捗モニタリング
これらはESDの強化とSDGsの目標実現に向けて、より一層の努力が必要であると示され、日本国内の関係機関では「優先行動分野」と「重点実施領域」の確認、取り組みが実施され始めました。
また、学校教育下においても「持続可能な開発のための教育(ESD)は次期学習指導要領改訂の全体において基盤となる理念である」として、中央教育審議会より答申があり、幼稚園教育要領、小・中・高等学校学習指導要領にて「持続可能な社会の創り手の育成」としてESDが明記され、現在ではユネスコスクール加盟の学校などを中心に積極的にSDGs/ESDの授業や取り組みが行われています。
◆【第五回】日本国内のSDGsの現状へつづく
【参考文献】
ギア
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【おしえて!かとQ】 グリーン購入法やSDGsの取り組みでウソをついている企業に対する罰則はあるの?
まずはじめに「グリーン購入法」と「SDGs」に関する取り決めは以下の違いがあります。
「グリーン購入法」は国の機関や都道府県・市区町村などの地方公共団体、事業者、国民、製造メーカーのそれぞれが、グリーン購入を推進・義務づけることで、続的発展が可能な社会の構築をめざすものです。
罰則規定はありませんが、納入業者などが書類を偽造した場合は、虚偽記載として公正取引委員会か、国等の会計関連法令に基づき処置が行われます。 また、これ以外の事業者においては民法等に基づく訴訟の場で判断される場合もあり得ますので、虚偽などが無いように取り組む必要があります。
「SDGs」は国連加盟国が採択した、目標であるため努力目標・努力義務を課するモノなので、こちらは特に罰則規定はありません。但し、232の指標をすべての国連加盟国が自主的に報告をするシステムがあり、各国の進捗状況が定期的に発表されています。
また、企業などの取り組み状況を知るためにはそういったシステムはないものの、企業の方に『SDGsのどんな取り組みをしているのか?』『SDGsの取り組みをすることでどんなことに貢献をしているのか?』など質問するのも良いでしょう。その回答によって「SDGs」の取り組みの真意が解ると思います。
「グリーン購入法」「SDGs」共に、企業だけが取り組むべき事柄でなく、私達も企業と一緒になって『より良い社会を構築していくために取り組むコト』ですから、私達もしっかりとそれぞれの取り組みを理解し、行動していく事が大切だと考えます。