私たち夫婦がキナバル登山を決意したのは、2017年夏。新婚旅行はどこへ行こうかと考え始めたとき、思い浮かんだのが海外で山に登ることでした。そこですぐに興味をそそられたのが、独立峰としては東南アジア最高峰であるマレーシア、ボルネオ島に位置するキナバル山だったのです。
日本にはない4000M越えでありながら、ビギナーにおすすめで設備も整っているということ、山を抱くキナバル国立公園全体が世界遺産であること、島なので下山後はビーチリゾートも楽しめちゃうなど、メリットと魅力がたくさん!
早速、準備を始めることにしました!
目次
まずは、事前準備!
引用:Mountain Torq Photo Credit : Outdoor Life
ふらっと行けてしまう富士山とは違い、キナバル登山は決まった時から様々な準備が必要。とは言っても、予約をするなど基本的なことだけで、特別な経験は必要ありません。
山小屋 or パッケージツアーを予約する!
何よりも先に確保しなければならないのは、山小屋です。つまり、ベッドとご飯。キナバルでは入山登録時、山小屋にベッドを確保できている証明がなければ、そもそも入山する権利がありません。
ベッド数はたった130人分程度なので、必然的に争奪戦となります。厳しいですが、それは世界遺産である名峰を守るため。もちろんテントを持って行って野営する!なんてことは出来ませんので注意です。
まず最初に問い合わせた、現地の日本人向けガイドツアー会社の見積もりはこちら。
RM2080(56,160円)×2名=112,320円
このパッケージには、コタキナバルからの送迎、2泊分宿代(前泊宿+山小屋)、ガイド料、登山登録料など、キナバル登山に必要な基本全てをほぼ網羅しています。
「安心だし、このまま予約してもいいかも」と思いましたが、少しでも格安にしたい私。気になっていた山小屋にも直接メールを送ってみることに。そちらの見積もりは…
SD560(42,280円)×2名=84,660円
シンガポールドルで提示されたので一瞬あれ?と思いましたが、計算すると「お、少し安い!」そしてこの山小屋を選んだのは何故かというと、なんとここならギネス記録の世界一高所でのクライミングツアーへの参加費用も含まれているというのです!
新婚旅行にふさわしい、なんとも魅力的な経験になりそうではないですか。私たちは迷わず、この山小屋、Pendant Hutに申し込みをしました。
引用:Pendant Hut
まさかこの決断を、あんなに後悔するとは思いませんでしたが…
前日の宿泊場所を確保!
キナバルは朝10:30までに入山登録して、ゲートを通過しなければその時点でタイムオーバー。そのため登山口の近くに前泊するか、宿から登山口までの足を必ず確保しておかなければ危険です。
現地ツアー会社のパッケージには、その前泊も込みでした。でも私は山小屋に直接予約しているので、自分で前日の宿を手配しなければなりません。そこで見つけたのが J residence というゲストハウス。公園入り口までも歩いて5分程度と、とても好立地でした!
引用:J.Residence
山小屋、前泊宿が取れることを確認してから、航空券を手配しましょうね。
羽田空港から、キナバルまで。
さあ、ついに日本を出発!
羽田空港からコタキナバル空港までは、クアラルンプールでの乗り継ぎ含めて合計12時間の長旅。さらにエアポートバスに乗り換えて1時間弱、ようやくコタキナバルという海辺の街に到着しました。
この時点でかなりの疲労でしたが、今日中に前泊の宿まで行かなくてはなりません。さらに現地のミニバスに乗り継ぎますが、またさらに2時間の道のり。でも整備された道で、ぐっすり眠ることもできて良かった!
前泊のゲストハウスに到着!
なんとも山並みが美しいと思いませんか。やっとの思いで到着したキナバル公園の入り口。ゲストハウスはテラス付きで快適。その風景に旅の疲れが一気に癒されました。自分で手配してよかった…と感じた瞬間です。
そして明日、入山登録する場所と山小屋のチェックインカウンターもお散歩がてら事前チェック。さあ夜20時、明日に備えて就寝です。
ついに、キナバル登山へ!
まずは朝6時半起床。前日にチェックしておいた、公園入り口にあるバルサムカフェで朝食をとることに。これからアタックするキナバルを眺めながら、気持ちの良いテラスで今日のエネルギーをバッチリ補給です!
8:00 登山スタート前のチェックイン
朝食を終えたら、そろそろ入山登録カウンター(Sabah Parks HQ)がオープンする頃。まず山小屋のチェックイン手続きを済ませた頃には、すでに登録所は登山者で混雑していました。
なお登録時に必要なものは、パスポート、エントリーシート、山小屋の宿泊証明など。同時に、登山に必要な諸費用、下記一式を支払います。
チェック
- 公園入場料 = RM15/人
- 登山許可証 = RM200/人
- 保険 = RM7/人
- ガイド料 = RM230/1泊2日
- 登山ゲートまでのバス = RM34(往復2人分)
おおよそ2人で972リンギットなので、24,000円程度です。現地ガイドツアーパッケージには、この費用も含まれていたましたね。そう思うと、あれでもまあお得なパッケージだったのかも。
8:40 ついに登山スタート!
2日間を共にする現地住民のガイドを紹介されて合流、一緒にゲートをくぐればいざ登山開始です!
登山道には滝があったり、日本の山とは違う南国植物、ものすごい湿気とうっすらとした霧につつまれています。またリスなどの野生動物にも出会えます。
あいにく登り始めてからは、朝は綺麗に見えていた山頂も完全に雲の中。綺麗なピークを拝みながら、爽やかに登りたかったですが…その後全く見えることもなく、ただひたすらに登り続けます。
途中、0.5〜1km(30〜40分くらい)ごとに屋根付きのシェルターが完備されているので、自然と無理のないペースで登れるように配慮されています。しかし雨が降ると混雑するので、私たちは何度かスキップしてしまい、その度にガイドに「Are you OK?」と確認されていましたね。
提供:キナバル公式管理局
登山道からちょっと外れれば、珍しい南国植物であるウツボカズラや、ラフレシアなども見ることが出来るらしいのです。けれど、私たちのガイドは一度もそんな植物を見せてくれなかった…おそらく、私たちの早く登りたい気迫を感じていたのでしょうね。
あとみんな山小屋からパックランチをもらっていて、ちょっとだけ羨ましかったかも。でも私たちは行動食しか食べずに、一気に登り続けてしまいました。食べると逆に登れなくなるという、昔の経験があったからなのですが、一番のりで山小屋についてからの熱々カップラーメンも最高でしたよ!
13:30 Pendant Hutへ到着!
山小屋があるのは標高3,300M付近に固まっていますが、まず初日にはこの山小屋まで行くことが求められます。逆に、どんな健脚でも登山初日は山小屋まで。そのままピークアタック!というような無謀なスケジュールは組めないようなルールとなっています。
私たちが山小屋に到着したのは、ゲートを通過してから約5時間後。正直言って、ここまでは楽勝です。日本の槍ヶ岳の方がよっぽど辛かったかな。
山小屋には、なんとホットウォーターサーバーもあって、バターコーヒーや温かいお茶などが飲み放題!温かいシャワーも浴びられて、日本の山小屋とは比べ物にならないくらいの快適さでした。
15:30 アクティビティ参加者オリエンテーション
私たちが泊まるPendant Hutは、Via Ferrataという特別な岩壁コースに参加する登山者専用。そのため参加者は、実際のロープワークを練習する15:30からのオリエンテーションに出席することが必須です。
その時間までに到着できないと…アクティビティに参加する資格がなくなります!
コースは下記の2種類あり、参加者はすでに選んで予約しています。
チェック
- Walk the Torq (ショートコース全長430M:2〜3時間)→比較的初心者向け
- Low’s peak circuit (ロングコース全長1.2KM:3〜4時間)→脚力に自信のある方向け
私たちが選んでいるのはもちろん、ギネスにも登録される高所ロングコースのLow’s peak circuit。そしてこのオリエンの時点で、念を押されたことがありました。それは一度スタートしたら、決して戻れないということ。
そして、この距離の差を見てください!そもそもスタート地点の高度が全然違いますし、距離が3倍くらい長い…そう思いますよね。各国から集まった2〜4人組が7チーム以上はありましたが、この説明を受けた時点で、なんと大半のチームがロングコースを断念してショートコースに変更。
翌日の天候もあまり良い予報ではなく、私でさえも、やはりやめた方がいいのでは?という考えが一瞬頭をよぎりました。
しかしギネス認定の難関コースが目の前にあって、条件は悪いが踏破できない状況ではない!その可能性を信じ、自分たちの身体能力を信じ、私たちは挑戦するという最終決断をしました。
17:00 まさかのブッフェディナー!?
Pendant Hutでは夕食が出せないため、ちょっと下まで歩いてLaban Rata Rest Houseまで行かなくてはなりません。ここは一番大きい山小屋なので、登山するだけならこちらに宿泊することが多いでしょう。
そしてメニューは何かなと思っていたら、なんとブッフェスタイル!標高3000M超えの山小屋で食べ放題なんて信じられませんよね。メニューもかなり豊富でしたが、すでに終了時間が迫っていたので、写真を撮り忘れました…
けれどもし天候が悪かったら、夕食を食べに行けないなんて事態もあり得たのでは…と考えるとゾッとします。さあ暗くなる前に、Pendant Hut まで戻らなくては。見下ろすと、今までの雲が晴れて綺麗な夕焼けになっていました。
20:00 明日に備えて就寝
天候が悪いと閉鎖してしまう登頂ルートですが、通常2:00にはゲートがオープンするはず。
しかし万が一ゲートが開かない場合は、ピークアタックは断念するしかないと言われ、祈る気持ちで眠りにつきました。
2:30 真夜中からのピークアタック!
深夜2:00、起床するとゲートが開いたとの報せ。ほっと胸を撫で下ろし、いざピークアタックです!もちろんまだ外は真っ暗闇で、迎えにきたガイドと一緒に、ヘッドライトを頼りに歩き出します。
そこからは、ぐちゃぐちゃな足元や整備された階段、大きな一枚岩など実にバラエティ富んだ登山道。夜明けまでの登頂を目指し、明るくなってきた空に追い立てられながら、一心に登り続けます。
まだ暗い上に雲がかかっていたので、自分がどんな道を歩いているかもわかりませんでした。実はかなり険しい岩場をくぐり抜けていたようです。
一瞬の晴れ間で、視界がやっと開けました。すると、まるで天空の城です。こんな道を歩いてきたんだ…感動。
6:15 ついにキナバル登頂
キナバルには、名前がついたピークがいくつも点在していて、一番高いLow’s peakで4,095Mもの標高があります。そこにたどり着くまでに、山小屋からは3〜4時間程度。空気も薄いので、あまり急ぎすぎると高山病にかかる恐れも大きい。その日、やはり何人か脱落者もいたようです。
そしてついに、キナバルの最高地点Low’s Peakに登頂です!周りは真っ白なガスで何も見えず、かなり限られたスペースなので、長居はできません。というか、寒すぎてじっとして居られません!
達成感に浸る暇もなく、アクティビティの集合場所へ戻らなければ。しかも7:00までに。そして私たちにとっては、これからが本当の戦いの始まりだったと言えます…
7:00 地獄のLow’s peak circuit
Low’s peak circuitは、最高地点の標高が3,776Mでまさに富士山の頂上と同じ。そんな場所で慣れないワイヤーワークをしながら、全長1.2KMの道のりを進むのは、想像を絶する過酷さでした。
しかもその日は深い霧がかかって風もあり、つま先を引っ掛ける足場も濡れて滑りやすい状態。まさに中止にするかしないか、瀬戸際のシチュエーションだったでしょう。それでも私たちは、最後まで「この新婚旅行で、世界一のコースを踏破するんだ!」という思いだけで、断念することはありませんでした。
落ちれば標高差100M以上の岩の側面を、カニ歩きのように進んでスタート。雨で滑りやすい足場に、慎重に足を乗せながら覗く足元は、霧のせいでどこまで続くかわからない、真っ白な奈落の底のようにも見えました。
そこからはただ雨に打たれながら、恐怖と戦いながら、それでも集中力を切らさずに必死に進むことだけを考えていました。何度も、引き返した方がいいのではないかと思ったけれど、今まで来た道を戻る想像をしただけでそれもまた恐怖。やはり進むしかありません。
もちろん、自分で写真を撮る余裕なんて皆無です。たまにトレーナーの方が写真を撮ってくれた時だけは、余裕があるようにはしゃいで見せましたが、限界でした。素晴らしい景色が見えれば励みにでもなったでしょうが、それもまた皆無です。
下の写真は、一瞬視界がひらけて山小屋が見えた瞬間です。もうすぐだ!そう思いましたが、ここから山小屋までの間には見えない大きな峡谷があり、直線距離で進むことができないのです。
「あそこまで登ってから下らないと山小屋には行けない」
そう言われて見た先は、斜面45度はありそうな一枚岩と、そこにかかった1本のワイヤーでした。ここまで4時間近くの道のりを耐え、やっとゴールが見えたと思ってからのラスボス…
泣きそうになりながらも、それでも進むしかありません。一度足を踏み入れてしまったら、途中でドロップアウトするのは不可能なのです。もしくは本当に救助隊でしょうか。
11:00 Low’s peak circuit 完全制覇!
疲労と恐怖で震える腕にムチ打ちながら、まさに最後の力を振り絞りました。
そしてついに全てのトレイルを踏破!
気持ち的にはこんな感じでしたが、これはまだLow’s peak circuit前の写真。実際は倒れこむくらいのとてつもない疲労です。
まだ、これから4時間以上の下山が待っているのに…
15:00 最終下山
山小屋になんとか戻り、軽食ランチをいただいてほんの少しの休憩を挟むも、すぐに下山開始です。下山後は、そのまま今日中にコタキナバルの街まで戻らなくてはならないのですから。
その後は、本当に記憶が定かではありません。ただ早く休みたい一心で、足を無意識に運んでいただけでした。何度も滑りそうになり、かなり危ない状況だったと思います。
初の海外登山を終えて
最後はもう、本当にヘトヘト。深夜2:30に山小屋を出発してから、12時間以上歩き続けたし、想像以上の恐怖も味わいました。登山証明書は受け取ることは出来ても、お世話になったガイドと最後に写真を撮る気力さえも残っていませんでした。
もう一度、キナバルに登りますか?
そう聞かれたらきっと、もう一度晴れ渡った日に登りたいと思うでしょう。日本の登山しか知らなかった私たちに、海外登山という新しい魅力を教えてくれたキナバル。ぜひ体力と気力に自信がある方、そして天気に恵まれる幸運を持ち合わせた方は挑戦してみる価値があることは確かです!
ギア
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