多摩川の源流や、3つの河川の分水嶺がある「水の山」として知られる笠取山。山頂直下に立ちはだかる直登の急坂は「心臓破りの急坂」と呼ばれる笠取山の名物で、色々な意味でインパクトが強い山です。
今日は、自然豊かな原生林に覆われた沢沿いの登山道歩きと水源地巡りを満喫できる人気の日帰りコース「作場平口」から登る周回コースをご紹介いたします。
目次
原生林と水源地がある水の山「笠取山」
埼玉県秩父市と山梨県甲州市の境にある「笠取山(かさとりやま)」は、奥秩父山塊の主脈に位置する標高1953メートルの山です。「山梨百名山」「関東百名山」「新・花の百名山」に選定されています。
様々な川の水源地となっている山で、多摩川の源泉とされる「水干」や、荒川・多摩川・富士川の分水嶺が有名です。貴重な水源地ということもあり、笠取山の南斜面一帯は東京都水道局が管理・保護しています。
水源を守る為に保護された山は原生林に覆われたままという、手つかずの自然が残った貴重な山です。登山道は大変整備されていて、自然豊かな原生林に覆われた沢沿いの登山道歩きを満喫することが出来ます。
山頂は大パノラマとはいきませんが眺望が素晴らしく、富士山や南アルプス、大菩薩嶺といった日本百名山の雄大な山々を一望できます。
山頂直下の名物「心臓破りの急坂」がインパクト大なので難易度が高そうな山に見えますが、山頂直下までは比較的緩やかな道のりです。中腹には山小屋もあり、日帰り登山からテント泊まで楽しめる人気の山です。
「笠取山」登山コース
笠取山は縦走路を含め、様々な登山コースがあるのが魅力です。今日はその中から最も定番で人気の日帰り最短コース「作場平口」から登るルートに絞ってご紹介いたします。
作場平口コース
- 標高差約640m/片道約5km/徒歩150~180分程度
- 最寄りの駐車場は「作場平駐車場」(駐車可能台数約20台/無料・トイレ有)
作場平口から登る場合はコースバリエーションが豊かで、同じコースを往復するピストンコースと周回コースを選ぶことが出来ます。分水嶺や水干といった源流スポットを巡る場合、コース取りが若干複雑です。
今日ご紹介するのは一休坂分岐からヤブ沢峠経由で山頂を目指し、分水嶺や水干といった源流スポットに立ち寄った後に笠取小屋から急坂コースで下山する定番の周回コースです。
コースは以下のような流れになります。
モデルコース 標高差約640m/総距離約10km/コースタイム約290~330分程度
作場平駐車場→作場平口→一休坂分岐→ヤブ沢→ヤブ沢峠→笠取小屋→小さな分水嶺→笠取山山頂(山梨百名山)→笠取山山頂(環境庁)→水干尾根分岐→水干→笠取小屋→一休坂→作場平駐車場
順を追って説明しますね。
最寄りの駐車場・公共交通機関
登山道の最寄りの駐車場は、中央自動車道勝沼インターから車で約60分の場所にある「作場平駐車場」です。
路面はダートで駐車料金は無料。駐車可能台数は約20台です。嬉しいことにトイレがあります。
笠取山の最短ルートですが、車でのアクセスは大変で、すれ違い困難な林道が約7キロも続きます。しかも駐車台数が少ないので、満車時は3つある臨時駐車場のどれかを利用することになります。
シーズン中の土日・連休は駐車場の争奪戦になり、作場平駐車場と臨時第一駐車場は早朝から満車になります。臨時第二と第三駐車場は登山口から2キロ以上離れた場所にあるので、いつもより早く家を出たいところです。
作場平口へ向かう公共交通機関は無いのでタクシーを利用する以外手段がなく、しかも片道1万円以上かかります。
公共交通機関を利用したい場合、新地平バス停から登る片道約4時間のロングコースも視野に入ってきます。
作場平駐車場→作場平口→一休坂分岐
第一のチェックポイントとなる一休坂分岐までは距離にして約1.1km、標高差約140メートル程度を約20分かけて登ります。登山口でもある作場平口は、駐車場から数十メートル歩いた場所にあります。
登山道は大変整備されていて緩やかな道のりなので、ハイキング気分で歩くことが出来ます。苔むした八ヶ岳を思わせるような沢沿いの原生林を、何度か渡渉しながらの絶景トレッキングです。
一休坂分岐まではあっという間です。右へ進むと距離が短い代わりに急こう配のコース。左へ進むと距離が長い代わりに緩やかなコースです。どちらに進んでもコースタイムは一緒なので多くの登山者は左へ進みます。
一休坂分岐→ヤブ沢
一休坂分岐からは左の緩やかなコースを選択しました。急坂コースは下山でお勧めなんだそうですよ。次のチェックポイントとなるヤブ沢までは距離にして約0.6km、標高差約40メートル程度を約15分かけて登ります。
トラバース(山の斜面を横方向に移動すること)気味に登山道が続くので、絶えず緩やかな道のりです。沢沿いを歩きながら引き続き森林浴を満喫できますよ。
ヤブ沢までは本当にあっという間です。ヤブ沢は分岐になっていて、右手に進むと一休坂分岐にあった急坂コースへ合流することができます。
ヤブ沢→ヤブ沢峠
ヤブ沢峠までは距離にして約1.2km、標高差約190メートル程度を約55~65分かけて登ります。この区間の前半は引き続き緩やかな道のりで、木製の橋を何度か渡渉しながらのトレッキングが続きます。
中盤で若干道迷いしそうなポイントがあります。一見、右手の平坦な道を進めば良さそうに見えますが、左手の階段を進むのが正解のようです。
後半は若干勾配が強くなり、登山らしくなります。とはいえ、トラバース気味につづら折りの登山道なので、そこまで急こう配ではありません。
ヤブ沢峠に到着です。登山開始からヤブ沢峠までは自然豊かな原生林に覆われた沢沿い歩きが本当に楽しく、飽きることがありません。良い道です。
ヤブ沢峠→笠取小屋
笠取小屋までは距離にして約0.8km、標高差約100メートル程度を約20分かけて登ります。この区間は車が辛うじて通ることができる林道歩きです。多少の勾配はありますが、比較的緩やかです。
余談ですが笠取山は山小屋を含め、ほとんどの場所で電波が繋がりません。小屋手前にある曲がりくねった開けた場所は、辛うじて電波が繋がる貴重なスポットです。
笠取小屋に到着です。テント泊や宿泊が可能な施設で、初めてのテント泊登山にお勧めです。トイレや売店の利用は日帰り登山客でも可能なので、多くの登山客で賑わいます。
笠取小屋→小さな分水嶺
小さな分水嶺までは距離にして約0.6km、標高差約60メートル程度を約10分かけて登ります。笠取小屋を抜けると見晴らしがよくなり、草原が広がります。
雁峠分岐からは小さな丘が見えます。あの丘こそ、小さな分水嶺がある場所です。右手の巻き道を進むと分水嶺に立ち寄らずに済むので下山で利用しましょう。
小さな分水嶺に到着です。分水嶺とは水系を作る境界線のことで、ここに降った雨がどの方向に流れるかによって河川の水源が決まるという、正に運命の分かれ道です。
この丘の東側に降った雨は荒川になるんだそうです。
西側に降った雨は富士山の西側を通り抜け富士川になるんだそうです。
そして、南側に降った雨は多摩川になるんだそうです。関東水源の始まりの地はロマンを感じますよね。
小さな分水嶺→笠取山山頂(山梨百名山)
笠取山山頂までは距離にして約0.5km、標高差約90メートル程度を約30~40分かけて登ります。まずは鞍部(山と山との間の低くなった所)まで細かいアップダウンを繰り返しながら進みます。
鞍部から望む笠取山はラスボス感満載です。見た目からして信じられない急登ですね。笠取山名物「心臓破りの急坂」の異名は伊達ではありません。
典型的な直登の急登ルートですが、実際は若干つづら折りになっています。とはいえ、今までの登山道が緩やかだったのでギャップが激しく、より一層きつく感じます。
山頂に近づくにつれ急こう配になり、岩も露出します。かなりの急こう配ですが距離は短いのでゆっくりと登ればそこまで大変ではありません。山頂手前には巻き道らしい分岐もあるのでルート取りは重要です。
笠取山山頂に到着です。ただ、この場所は本当の山頂ではなく、山梨百名山の山頂標識が立つ展望スポットといった位置づけのようです。何故か山頂標識が倒れていました。
北側は木々に囲まれているので360度パノラマビューではありませんが南側は開けていて、富士山や南アルプス、大菩薩嶺といった奥秩父山塊の山々を一望できます。
笠取山山頂(山梨百名山)→笠取山山頂(環境庁)
山梨百名山の標識がある山頂は大変狭いので長居はできません。このまま本当の山頂を目指しましょう。距離にして約0.2km、標高差約20メートル程度を約10分かけて登ります。
山梨百名山の標識がある山頂までは大変整備された登りやすい登山道でしたが、ここから先は信じられない位荒れた登山道が続きます。まるで別の山にでも登っているかのような気分になること間違いなしです。
笠取山山頂に到着です。標高は1953メートル。環境庁の山頂標識が立つ本当の山頂です。標識の側には三角点もあります。
周りは木々に囲まれて展望が無いのですが、南側は多少開けているので大菩薩嶺といった奥秩父山塊の山々を一望できます。本当の山頂も大変狭いので長居はできません。
笠取山山頂(環境庁)→水干尾根分岐
下山の際、笠取山の見どころ「水干」は是非立ち寄りたいところです。まずは水干尾根分岐まで向かいましょう。距離にして約0.4km、標高差約80メートル程度を約15分かけて下ります。
登山道は大変荒れていて、細かなアップダウンを繰り返します。水干尾根分岐へ向かう分岐も大変わかり辛く、トラロープにぶら下がったプレート脇の細い獣道を進みます。
あまりにも荒れた急斜面なので、道を間違ってしまったのかと思いましたが正解のようです。笹に覆われた信じられない斜面を下ります。
水干尾根分岐に到着です。右手を進むと唐松尾山を縦走するコースに進みます。日帰り縦走で人気のコースなんだそうですよ。
水干尾根分岐→水干
水干までは距離にして約0.1km、約5分程度です。トラバース(山の斜面を横方向に移動すること)気味に登山道を歩くと水干がある場所が見えてきます。
水干は沢の行き止まりという意味で、笠取山の南山腹にある多摩川の源泉とされる場所です。多摩川の最初の一滴は奥に見える洞窟のような岩から染み出るのですが、この日は枯れていました。
水干のしずくは一旦土の中に染みこみ、水干の反対側にある沢から湧き水として溢れだし、そこから東京湾まで138キロの長い旅が始まります。ロマンがありますよね。
水干→笠取小屋
下山では笠取小屋まで戻り、笠取小屋から先は急坂コースを通ります。笠取小屋までは距離にして約1.3km、標高差約90メートル程度を約30~40分かけて下ります。
笠取山西分岐から先は笠取小屋まで登ってきた道を引き返します。登山コースからは外れますが、雁峠分岐からは雁峠という見晴らしの良いスポットに立ち寄ることも出来ます。
急坂コースは笠取小屋のある広場を奥に進んだ場所にあります。登りと同じコースで下山しても良いのですが、急坂コースのほうが500メートル程距離が短いので下山でお勧めです。
笠取小屋→一休坂
一休坂までは距離にして約1.7km、標高差約270メートル程度を約40~50分かけて下ります。登山道は大変整備されていて、つづら折りになっているので歩きやすいです。
急坂コースも自然豊かな原生林に覆われた沢沿い歩きを満喫できるので森林浴を楽しみながら下山が出来ます。
あっという間に一休坂に到着です。行きは「急登」の文字を見た瞬間、反射的にこのルートを避けてしまいましたが、実際歩いてみると思っていた程急こう配ではありませんでした。
一休坂→作場平駐車場
作場平駐車場までは距離にして約1.5km、標高差約200メートル程度を約30分かけてかけて下ります。一休坂分岐まではつづら折りの登山道をひたすら下っていきます。
一休坂分岐から先は登りと同じルートです。右手に沢を眺めながら森林浴を楽しみましょう。
登山口がある作場平駐車場が見えてきました。大変整備された登山道のお陰で下山は思っていた以上に爆速でした。
笠取山に登ってみてわかったこと
笠取山の「作場平口コース」は、原生林と水源地を巡る歩きやすい登山道で、心臓破りの急登で達成感も味わえる登っていて楽しい山でした。
笠取山に登ってみてわかったことをまとめました。
まとめ
- 多摩川の源流や3つの川の分水嶺がある水の山
- 原生林に覆われた手つかずの自然が残る
- 登山口までのアクセスが悪くマイカーが必須
- 作場平駐車場までは道が狭く駐車場が争奪戦
- 前半は緩やかな登山道で沢沿い歩きを楽しめる
- 一休坂分岐はどちらもコースタイムが同じ
- 笠取小屋はトイレや売店もありテント泊できる
- 小さな分水嶺はロマンがあるので是非寄りたい
- 山頂直下の直登「心臓破りの急坂」は名物
- 山頂からは富士山や南アルプスを一望できる
- 本当の山頂は荒れた登山道の先にある
- 多摩川の源流「水干」も是非立ち寄りたい
- ほとんどの場所で電波が繋がらないので注意
- 日帰り登山できるがテント泊登山もお勧め
テント泊登山もお勧めなインパクト大の山
笠取山は原生林に覆われた沢沿い歩きや水源地巡り、心臓破りの急登と、登り始めから下山までインパクト大のイベントが盛り沢山です。多くの登山者が口を揃えて「楽しい山」と言うのも頷けます。
笠取山は初心者でも日帰り登山が可能な山ですが、是非ともテント泊したい山です。笠取小屋までは大変緩やかでテント泊登山デビューにお勧めですよ。
ギア
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