年に数回、全部がイヤになってしまう日がある。仕事なんてしたくないし、何もせず家でゴロゴロするのも嫌だ。かと言って、ホテルや旅館のおすすめ情報を調べて予約を取り、見知らぬ土地で自分探しをするのも面倒くさい。そもそもが「なんか嫌になっちゃったので」なんて理由で会社を休むのが恥ずかしくてイヤなのだ。
これはもう、やるしかないのか。巷で流行りのワーケーションとやらを。キャンプ場で。
目次
キャンプ場でワーケーションする準備を揃える
子供のようにイヤだイヤだと駄々をこねつつも「明日はキャンプ場でワーケーションをするのだ」と思うと、「さて何を持って行こうか」とほぼ強制的に前向きな思考に切り替わっていることに気が付いた。
これがワーケーションとやらの効果か。まさか前日の夜から、こんなにもワクワクさせてくれるとは思わなかった。ヤル気バロメーターは完璧にゼロだったのに、あれやこれやと夢中になってキャンプの準備を進めてしまう。
キャンプ場で仕事をするために必要な道具。ノートPCに大容量ポータブル充電器、それとキャンプ用チェアやテーブルなど。移動手段はバイクしか持ち合わせていないので、荷台に乗せられるようにコンパクトなモノを選ぶ。どれも数千円で買えるような安物だ。
急激に絞り出されたヤル気を燃料に、これでひとまずキャンプ場でワーケーションをする準備は整った。当然、明日は会社ではなくキャンプ場に出勤することになるので、いつもより早起きしなければいけない。
目覚まし時計を普段起きてる時間より2時間早くセットしたところで、突然、ヤル気ブーストがシュルシュルと萎えてしまった。そうだった、キャンプは準備をしている時が一番楽しかったんだ。
「やっぱりやめようかな。早起きするのが一番嫌だし」と往生際の悪い文句を吐き出して、のそのそとベットに潜り込む。今のところの正直な気持ちは「楽しみ半分、面倒臭さ半分」といったところだ。
明日の朝の憂鬱さや、キャンプ場までの道のり、途中のスーパーで何を買うべきかを考えていたら、いつの間にか眠っていた。
普段より早起きしてキャンプ場へ出勤する
朝が来た。寝ると朝が来るというのは実体験から分かってはいたが、想定よりも早く朝が来た。着替えるのすら億劫だが、行くしかないか。10月下旬、最高気温は18度の予報。朝飯も食わずに家を出る準備を進める。気分は意外と悪くはない。
朝のルーティンがいつもと違う。会社に行くのとは明らかに異なる装備をバイクに積み、スマホで目的地を設定してナビを確認する。
目指すは河口湖にあるニューブリッヂキャンプ場。GoogleMapの予想時間は1時間30分。スーパーでの買い物を入れたら片道2時間程度の道のりだ。行くか。
バイクに跨った瞬間、気分が高揚してきた。出勤するのがこんなにも楽しみなのはいつぶりだろうか。バイクのセルを回してエンジンが始動する音を聞いたら、ずいぶんと久しぶりに好奇心が疼きはじめた。
朝の通勤渋滞を横目に、高速道路の空いてる道を走り続けて1時間とちょっと。10月後半の冷たい空気を最高時速80kmで走り抜け、キャンプ場の近くにあるスーパーに到着した。
水とコーヒー、朝食用のパンと、お昼に食べる食材を購入して、リュックの隙間に押し込む。時刻は9時半。天気は予報どおり晴れ。少しずつ気温も上がってきて、まさにバイクツーリング日和だ。出社前から清々しい気分である。これは新卒社会人一年生の気持ちに近いかも知れない。経験したことはないけど。
ニューブリッヂキャンプ場について
ニューブリッヂキャンプ場のデイキャンプ利用時間は朝9時から夕方5時まで。まさにワーケーションとして理想通りのタイムスケジュールだろう。
利用料金は大人1人500円。最大3時間までで、それを超過すると以降は1時間毎に100円の追加料金となる。つまり、9時から17時までフルタイムで利用するなら1000円になるわけだ。
さらに今回はワーケーションをより充実させるためのハンモックも持ってきた。こちらは持ち込みテントスペース代として、1人用が1張り500円。最大でも合計1500円だ。
1500円で朝から夕方まで利用できるというのは、都内のコワーキングスペースを利用することを考えると格安だろう。ただし高速料金などの交通費は無視することとする。
ニューブリッヂキャンプ場のキャンプサイトは車の乗り入れができるオートサイトと、乗り入れできない林間フリーサイトの2種類がある。その他にも管理棟を挟んで反対側にコテージがいくつか建っている。
車であればオートサイト一択だろうが、荷物も少ないツーリングキャンプであればバイクは駐車場に停めて林間のフリーサイトを利用しても良いだろう。
静かな森の中で焚き火のはぜる音を聞きながらワーケーションを嗜むなんて、スターバックスのテラスを占領しているノマドワーカー達が泣いて喜ぶシチュエーションではないか。意識高い系もびっくりである。もうすでに自己肯定感がぶち上がってきた。ワーケーションにはこのような作用もあったのか。
キャンプ場に出勤したらまずワーケーション用のサイト設営
今日の仕事場はここに決めた。地面も平らで木と木の間にハンモックが掛けられる程良いスペースが確保されている。
さらにはサイトの目の前が開けていて、河口湖とそれを囲む山々が見渡せる最高のロケーションだ。
テレワークの休憩時間に家の近くを散歩したり、外の景色を眺めたりしてリフレッシュすることは大抵の人が実践しているだろう。その効果は科学的にも証明されていて、日の光を浴びたり軽い運動をすることでセロトニンという脳内物質が分泌されるそうだ。
脳内のセロトニンが活性化すると「癒し」や「リラックス」を感じられるらしいのだが、このような場所で仕事をしていれば常時フルスロットルでセロトニンが分泌され続けるに違いない。まさにセロトニンのパワースポットである。
大脳からセロトニンがフツフツと分泌されていることを感じつつ、本日の作業場を完成させた。これで今日一日の作業効率は段違いのはずだ。ドラゴンボールの孫悟空が使う必殺技「界王拳」で言えば10倍近い速度が出てもおかしくない。
ワーケーション、なんて素晴らしいんだ。日本国民全員がワーケーションに取り組めば、日本人一人当たりの生産効率はぶち上がり、国内総生産は中国やアメリカをぶち抜いて世界1位を獲得できるだろう。もしそうなったら政府はテレワークよりもワーケーション支援を推進した方が良い。アベノミクスならぬワケノミクスで平均株価も軒並み上昇、ワーケーションバブルの到来である。
本当にキャンプ場でのワーケーションは捗るのか?
実際にキャンプ場でノートPCを広げてみると、確かに普段よりも集中できているような気がする。周りの自然環境音がそうさせるのか、鳥の鳴き声や草木のそよぎ、ひんやりと心地よい風、暖かい木漏れ日、自宅や会社で仕事をしているときよりもリラックスして作業ができる。
いつかはやらなきゃいけないと思いつつ優先度が低くて先送りにしていた業務を前にしても、孫悟空の決め台詞「いっちょやってみっか!」のような勢いで取り組むモチベーションが湧き上がってくるのだ。
これは確かに家でダラダラと仕事をするよりも遥かに建設的かも知れない。地球上のワーケーショニストがオラに元気を分けてくれているのを感じる。今なら元気玉だって作れる。
作業の合間のちょっとした小休憩に、焚き火に薪を追加して火の揺らぎを眺める。これもまた脳のリラックスに繋がり、休憩の効果もビンビンにアップしているのだ。もはや私は最強の効率マシーンである。ベジータが地球侵略のために持ってきた、種を植えると一瞬で成長する栽培マンも真っ青の生産力だ。
仮に私がスーパー作業効率サイヤマンであったとしても人間であることには変わりないので、お昼になったら腹は減る。そこにキャンプ飯の定番である豪快なステーキをぶっ込むわけである。高タンパク低糖質をこれまた効率良くエネルギーに変換するのだ。
外側はカリッと、中はレアに仕上げて、溢れ出す肉汁を堪能するのである。もはや私は誰にも止められない、止まらないのである。
お昼ご飯を食べたら急激に眠気が襲ってきた。それもそのはず、今日はいつもより早起きだったし、早朝からバイクで長距離運転をして来た。
普段より作業効率も上がっていることだし、多少の昼寝くらいなら問題無いだろう。実際、20分ほどの昼寝を取り入れることで生産性がアップするという研究結果もあり、スペインをはじめとする海外の風習にならって「シエスタ制度」を導入している企業もあるくらいだ。
私はハンモックに揺られながら目を閉じ、心地よい浮遊感とともに眠りについた。
体感的に軽めの昼寝から目を覚ますと、腕時計は午後4時を示していた。さっきまで明るかった空はほんの少しだけ赤味を帯び、キャンプ場内は彩度が落ちてブラウン系のエフェクトが掛かっているようにも見える。
急な寒気を感じたのは、先ほどよりも空気がひんやりしているからだけでは無いだろう。目が覚めた瞬間に遅刻を確信した時のような、友人との待ち合わせを忘れていて今ドコ電話で約束を思い出した時のような、そんな絶望感である。
ニューブリッヂキャンプ場のデイキャンプ利用時間は夕方5時迄である。今の私にできる最善の行動は、すぐに撤収を開始して時間内のチェックアウトを間に合わせるだけなのだ。
帰るか…
結局、仕事ができたのは最初の1時間だけだった。どれだけ作業効率がアップしていたとしても、たった1時間で1日分の仕事を終わらせることは不可能だ。
確かに普段よりも作業スピードは上がっていた気もするが、キャンプ場でワーケーションをしようとすると仕事以外にもキャンプ場への移動や買い出し、設営撤収、昼飯作りなどの手間が増えてしまう。そうなると自ずと業務に費やす時間は減ってしまうのだ。
こんなことならば、おとなしく会社に出勤して仕事をしていた方が良かった。今日一日の業務報告は、新卒社会人一年生よりもペラペラなものになったわけだ。とほほ、である。
キャンプ場でのワーケーションはデイキャンプじゃなく連泊がおすすめ
初めてのワーケーションチャレンジは正直なところ失敗だった。しかし失敗の原因は明確である。デイキャンプでのワーケーションは、仕事以外にもやらなければいけないことが多過ぎるのだ。
それならば宿泊キャンプ、可能であれば連泊キャンプで設営と撤収の手間を分散させ、1日の中で仕事に使える有効時間を増やすことが出来れば、作業効率アップの恩恵を存分に享受できるのではないだろうか。
仕事とバケーションを組み合わせた新しい働き方、ワーケーション。まだまだ一般的には珍しく見られがちだが、テレワークが全国的に普及したように、今後の可能性は十分に感じられるものだった。
だがしかし、仕事をするのが嫌だからと言って逃げ回った挙句に、よく調べもせず「いっちょやってみっか!」と勢いだけでワーケーションという流行りに乗っかるだけでは、私のように仕事が1割も手に付かずに終わってしまうだろう。
つまるところ仕事がデキる人間というのは、楽な方へ楽な方へと流れたりせず、どんな状況でも任された仕事を堅実にコツコツとこなしていける人だけなのだ。社会人ならば誰もが知っている当然のことを、改めて戒められた1日であった。
ギア
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