至仏山の山頂からは「尾瀬ヶ原」を見渡すことができるとあって、多くの登山者が訪れます。特に、至仏山の中腹から見渡す尾瀬ヶ原は別格で、山ノ鼻ルートからしか見ることが出来ない特別な景色です。
今日は、目の前に尾瀬ヶ原と燧ヶ岳が広がる雄大な景色を求めて、直登の急傾斜が続くハードなコース「山ノ鼻コース」に挑戦しました。
目次
尾瀬を代表する日本百名山「至仏山」
群馬県にある「至仏山(しぶつさん)」は、関越自動車道沼田インターから車で約60分。尾瀬国立公園内、尾瀬ヶ原の西端に位置する標高2,228mの山です。
いかにも仏教が絡んだ山岳信仰がありそうな山名に思えますが全く関係なく、登山道が無かった時代、渋沢(しぶっさわ)沿いに登っていたことに由来するんだそうです。
尾瀬には至仏山の他に「燧ヶ岳」、「会津駒ヶ岳」と日本百名山が三座もあり、「至仏山」は尾瀬で唯一、群馬県側にある日本百名山です。他には花の百名山、ぐんま百名山に選定されています。
山体が「蛇紋岩」という岩で形成されているのが特徴で、蛇紋岩植物と呼ばれる、至仏山でしか見ることができない珍しい高山植物が生育しています。7月は高山植物が見頃なので、シーズン中は多くの登山者が訪れます。
至仏山は森林限界が低いので標高1700mを超えたあたりから見晴らしが良くなり、中腹からも尾瀬ヶ原全体を見渡すことが出来ます。勿論、山頂は周りに遮るものがなく、360度パノラマビューの絶景が広がります。尾瀬を代表する名峰だけあって、期待が高まりますよね。
「至仏山」登山コース
至仏山の登山ルートは「山ノ鼻ルート」「鳩待峠ルート」の2つです。
山ノ鼻ルート
- 山ノ鼻にある東面登山口から登頂するコース
標高差約800n/片道約6.2km/徒歩約240分程度
鳩待峠ルート
- 鳩待峠にある至仏山登山口から登頂するコース
標高差約630m/片道約4.5km/徒歩約180分程度
駐車場情報
最寄りの駐車場は、どちらの登山コースも戸倉駐車場です。
第一、第二とあり、第一駐車場が280台。第一駐車場が250台の車を停めることができます。駐車料金はどちらも1日1000円です。
尾瀬はマイカー規制があるので、鳩待峠までは乗り合いバスかタクシーを利用します。乗り合いバスは頻繁に運行しているので待ち時間は殆どありません。バスの料金は片道1000円です。
但し、マイカー規制期間以外は鳩待峠まで車の乗り入れが可能です。鳩待峠駐車場は約120台の車を停めることができます。駐車料金は1日2500円と、やや高めです。
マイカー規制の期間はシーズンによって異なる為、以下から確認することをお勧めします。
鳩待峠駐車場が利用可能な場合、「鳩待峠」まで徒歩3分と、圧倒的に時間を短縮できる点がメリットです。
時間を短縮できるとあって大変人気の駐車場で、多くの方が夜中に駐車場に到着して車中泊をします。
鳩待峠駐車場は休日ともなると深夜には満車であることが多いので、鳩待峠駐車場まで到着しても、満車で引き返さなけらばいけないなんてことが多々あります。
筆者は運よく、鳩待峠駐車場に停めることが出来ましたが、安全策を取るのであれば戸倉駐車場の利用をお勧めします。
また、冬季は鳩待峠駐車場をはじめ、戸倉駐車場も閉鎖になるので、鳩待峠まで10km程度山道を歩く必要があり、上級者向けの登山コースになります。
至仏山の登山ルール
至仏山は山体が「蛇紋岩」という脆い岩で形成されているので崩壊しやすく、風化が早いため、植生保護と登山者の安全を目的とした独自のルールがあります。
登山をする前に以下のことを把握しておきましょう。
1. 入山規制がある
至仏山は高山植物保護のため、5月上旬から6月末まで全面入山禁止です。例年は7月1日から山開きになります。
至仏山の登山適期は7月~11月上旬までと限定的です。
2. 山ノ鼻コースは登り専用
山ノ鼻コースは植生保護と登山者の安全の為、下山での利用が禁止です。
そういった事情もあり、「鳩待峠ルート」から登頂した場合は必ずピストンルートに、「山ノ鼻ルート」から登頂した場合は必ず周回ルートになります。
鳩待峠ルートは標高差もそこまで無く、比較的登り易いので初心者にも人気ですが、その代わり、至仏山中腹からの「尾瀬ヶ原と燧ヶ岳が広がる雄大な景色」を拝むことが出来なくなります。
この特別な景色を拝みたい場合、「山ノ鼻ルート」一択です。
筆者は、至仏山中腹からしか見ることが出来ない、尾瀬の雄大な景色を拝むのが最大の目標だったので、直登で急斜面が続くハードなコース「山ノ鼻ルート」に挑戦しました。
今回の登山コースは以下のような流れになります。
山の鼻~鳩待峠ルート概要(周回)
- 鳩待峠 → 山の鼻 → 東面登山口 → 高天ヶ原 → 至仏山 → 小至仏山 → オヤマ沢田代 → 至仏山登山口
順を追って説明しますね。
鳩待峠 → 山の鼻
戸倉駐車場から乗り合いバスでアクセスした場合、鳩待峠までは30分程度で到着します。鳩待峠駐車場からアクセスした場合、徒歩3分です。鳩待峠にはトイレや自動販売機があるので便利ですよ。
鳩待峠ルートからピストン登山をする場合は、鳩待峠休憩所対面にある「至仏山登山口」から入山します。
山の鼻ルートで登頂する場合、尾瀬ヶ原入口から山の鼻を目指します。鳩待峠から山の鼻までは距離にして3.3km、標高差200mを下ります。時間にして40~60分の道のりです。
山の鼻までは木々に囲まれた木漏れ日の気持ち良い道です。木道が整備されていて歩きやすいので、尾瀬を満喫しながら歩きましょう。
川上川の橋が見えてきたら山の鼻はすぐそこです。
山の鼻が見えてきました。山の鼻にはキャンプ場や山小屋があるので良い休憩ポイントになります。この先はトイレが無いので、トイレは山の鼻で済ませておきましょう。
山の鼻 → 東面登山口
山の鼻には至仏山登山口と尾瀬ヶ原の分岐があります。折角なので尾瀬ヶ原の壮大な景色を拝んでから登山口に向かいましょう。
尾瀬ヶ原までは歩いて1分もかかりません。目の前には草紅葉した尾瀬ヶ原と日本百名山「燧ケ岳」の絶景が広がります。
元の道に引き返して、登山口へ向かいます。看板が沢山立っているので一発でわかりますよ。
湿地帯の先に見える樹林帯に東面登山口の入り口があります。目の前には至仏山がそびえたちます。
東面登山口に到着です。この先は距離にして2.9km、標高差800mの、ひたすら直登の急斜面が続くハードな登山道が続きます。
下山が出来ない片道切符の登山道なので、一度登り始めると、引き返すことが出来ません。自信の無い方はここで引き返して、鳩待峠からチャレンジするのもありです。
東面登山口 → 高天ヶ原
山の鼻コースは山頂までは目印となるポイントや標識が無いので、ペース配分が難しいコースです。ざっくりではありますが、高天ヶ原含め3つの休憩スポットがあり、それぞれベンチがあるので、そこをチェックポイントにすると登山の目安になります。
1つ目のベンチまでは景観ゼロの樹林帯が続きます。標高差250m、距離にして約1000メートルを1時間かけて登ります。
暫くは木道や階段が続きます。日当たりが悪いので足元は大変滑りやすく、木道や階段も傷んでいるので慎重に登りましょう。
本当に1直線の道のりで、景色も変わらないので辛い区間です。1つ目のベンチまでは、はっきりいって修行です。
標高1600mを超えたあたりから森林限界を迎えるので多少明るくなります。それでも景観はゼロのままです。
第一のチェックポイントとなるベンチが見えてきました。この先は景色が開けるので、楽しい登山が待っていますよ。
後ろを振り返ると、待ちに待った「尾瀬ヶ原と燧ヶ岳が広がる雄大な景色」がチラ見えしました。この先は後ろを振り返ると、いつでもこの絶景を拝む事が出来ますよ。
次のベンチまでは標高差250m、距離にして約800メートルを1時間かけて登ります。ちなみにこの区間が最も急登です。
というのも、ここから先は蛇紋岩をよじ登るように進むことになるからです。ちょっとしたクライミング気分を味わうことができる登山道が続きます。
至仏山は蛇紋岩で出来た山なのですが、蛇紋岩は大変滑りやすい岩としても有名です。至仏山を登る時は、蛇紋岩との闘いになります。
特に、黒く変色した部分は本当に滑るので細心の注意が必要です。蛇紋岩が濡れていたり、雨の日は更に滑ります。
第二のベンチに近づくにつれ、さらに急登になります。両手を使う機会が増えるのでストックは使わない方がよいでしょう。
場所によっては鎖場もあります。蛇紋岩の鎖場は足を滑らせると大けがをします。慎重に、確実に登りましょう。
第二のチェックポイントとなるベンチが見えてきました。後ろを振り返ると、今まで以上に尾瀬ヶ原と燧ヶ岳を一望できる絶景が広がります。
3つめのベンチがある「高天ヶ原」までは標高差150m、距離にして約600メートルを30分かけて登ります。ちなみに暫くは蛇紋岩の鎖場が続く核心部が続きます。
蛇紋岩の鎖場エリアを抜けると、今度は今にも崩れそうな階段の道のりが続きます。階段は斜めになっていて登り辛く、滑りやすいので引き続き細心の注意を払う必要があります。
本当に登り辛い階段なので階段を避けたいところですが、至仏山は高山植物保護のため、登山道以外の場所を歩くことが禁止されています。ルートから外れないで、必ず階段を使いましょう。
果てしなく続く、登り辛い階段の途中に3つ目のベンチが見えてきました。チェックポイントの「高天ヶ原(たかまがはら)」に到着です。
高天ヶ原眼下に広がる尾瀬ヶ原の全景と、燧ヶ岳がそびえる眺望は、はっきりいって絶景です。ハードな山の鼻コースを登った人だけが見ることが出来る、特別な景色です。
高天ヶ原 → 至仏山山頂へ
至仏山山頂までは標高差150m、距離にして約500メートルを30分かけて登ります。暫くつづら折りの階段が続きます。
後ろを振り返ると、高天ヶ原越しに尾瀬の雄大な景色を拝むことが出来ます。勿論、山頂からも同じような景色を見ることが出来ますが、ここまでスケールが大きくありません。この特別な絶景も、ここで見納めです。
山頂までは、今までの直登とは異なり、つづら折りぎみの階段が続きます。
人だかりが見えてきました。山頂はもうすぐです。どうやら山頂の周りは低木に囲まれているようですね。
至仏山山頂に到着しました。標高は2228m。山頂標識がまるで墓石のようで、大変立派でした。
至仏山からの景色
至仏山は、谷川連峰、日光連山といった名峰を見渡せる360度パノラマビューの山です。
メインディッシュは尾瀬ヶ原の全景と燧ヶ岳を一望できる東側の景色ではないでしょうか。こちらも大変絶景ではあるのですが、中腹からの景色と比べるとダイナミックさに欠けますよね。
二等三角点が山頂標識の近くにあります。
山頂は思っていたよりも狭く、低木に囲まれているので、山頂標識のある場所に登らないとパノラマビューを満喫できません。
ゆっくりと景色を楽しみたかったのですが、人気の山だけあって登山客で溢れかえっています。後ろ髪をひかれる思いで下山をします。
至仏山 → 小至仏山
山ノ鼻ルートから登頂した場合、ピストン山行が出来ないので下山は鳩待峠ルートを利用します。標高差約630m、片道約4.5kmの道のりを130分程度で下山できます。
下山中は小至仏山を通過します。山容がまるで唐松岳のようで美しい山です。小至仏山までは距離にして約600メートル、約40分の稜線歩きが続きます。
ちなみに、小至仏山まで標高差はそこまでありませんが、偽ピークと蛇紋岩が立ちはだかる意外とハードな道のりです。
後ろを振り返ると至仏山山頂が見えます。反対側は崖の様になっていて、想像していた山容とは全く異なるので驚きました。
稜線を歩き進めると、目の前に小至仏山が立ちはだかります。一見、険しそうな道のりですが、そこまで急登ではありませんよ。
小至仏山に到着です。標高2162m。山頂は尖っていて大変狭いので、長居はできません。
小至仏山から見る至仏山は大変美しく、こちらも唐松岳を思わせる美しい山容でした。
小至仏山 → オヤマ沢田代
鳩待峠ルートはバリエーションに富んでいて、小至仏山以外にも、オヤマ沢田代という湿原に立ち寄ることが出来ます。距離にして約500m、約30分の道のりです。
小至仏山以降は蛇紋岩に覆われた登山道は少なくなり、木道が整備された緩やかな道のりなので歩きやすいです。
オヤマ沢田代手前に分岐点があります。ここから笠ヶ岳へ登ることが出来ます。
オヤマ沢田代に到着です。尾瀬に数多くある湿原の中で、最も標高が高い場所にある湿原です。
オヤマ沢田代 → 至仏山登山口
あとは下山するのみです。鳩待峠のある至仏山登山口までは距離にして約3.4km、約60分の道のりです。
距離は長いですが、大変整備された緩やかな道のりなので、そこまで大変ではありません。
所々に標識があり、距離も書かれているので大変親切です。至仏山の山行でこの区間のみ標識が手厚いのは、オヤマ沢田代へ行きたい観光客向けだからでしょうか。
ゴールの鳩待峠に到着です。鳩待峠ルートは小至仏山までは本当に緩やかなので、登山初心者にもオススメのルートだと思いました。
至仏山に登ってみてわかったこと
至仏山の山ノ鼻コースは本当にハードな道のりでしたが、山頂からは決して拝むことが出来ない尾瀬ヶ原全体を見渡せる絶景が素晴らしいコースでした。至仏山に登ってみてわかったことや注意点をまとめました。
まとめ
- マイカー規制期間外であれば鳩待峠に車を停めることが出来る
- 至仏山の登山適正シーズンは7月から11月上旬までと限定的
- 5月上旬から6月末まで全面入山禁止
- 山ノ鼻コースは登り専用。下山禁止
- 山頂にはトイレが無いので、山の鼻か鳩待峠でトイレを先に済ませておいた方が良い
- 蛇紋岩は大変滑りやすいので細心の注意が必要
- 山の鼻コースは直登の急斜面が山頂まで続くハードなコース
- 尾瀬ヶ原と燧ヶ岳が広がる雄大な景色は山の鼻コースの中腹からしか拝むことが出来ない特別な景色
- 山頂は谷川連峰、日光連山といった名峰を見渡せる360度パノラマビュー
- 至仏山でしか見ることができない珍しい高山植物が楽しめる花の百名山
至仏山を満喫したい方は山の鼻ルートがオススメ
至仏山は高山植物保護のための独自ルールがあるので、登山計画は慎重に立てましょう。至仏山の魅力をフルに満喫するのであれば、鳩待峠から山の鼻へ向かう山の鼻周回ルートをおすすめします。
山の鼻ルートは直登の急斜面が続くハードな山行ですが、尾瀬ヶ原に寄り道して雄大な景色を拝むことが出来るうえに、このルートからしか拝むことが出来ない特別なご褒美が待ち受けていますよ。
ギア
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