登山をしてみたい!そう思ったきっかけは、滋賀県の琵琶湖西部に住んでることと、彼女(現在の妻)に買ってもらった、憧れのグレゴリーバックパックの性能を最大限まで発揮したかった!という動機からでした。
琵琶湖西部は山間部と琵琶湖の距離が近く、とにかく田舎なので近所に娯楽らしいような楽しい遊び場がなかったというのもあって、それなら近場の自然を最大限楽しみたい!という単純な欲求と、グレゴリーの真っ赤なバックパックはやっぱり登山やトレッキングでこそ輝くだろう!というイメージを持っていたからです。
計画とかを考えるよりまず行動!が信条の僕は、天気のいい日に昼ご飯を食べてから、新しく買ったかっこかわいいkeenの登山靴とグレゴリーを装備して半袖短パンで家から最寄りの登山口に車を停めて、そこからとにかく歩き始めます。
目次
人生初の登山に挑戦
登山道のすぐ近くを流れる小川、沢登りも出来そうな雰囲気
自然と人間の作ったものとの共生を感じる、小さな滝と木製の橋
はじめは小さな滝やそこにかかるレトロな木製の橋、小川やさまざまな植物、たくさんの岩が転がる自然の綺麗な道が続いていて、登山ってこういうものなのか!自然って間近で見ると本当に美しい!来てよかった!という感動を強く強く感じていました。
こういった水場を越える場所も
比良山系の琵琶湖西部側は水気が多く、美しい自然が広がる
でもしばらく歩いていると分かれ道があって、どっちに行くのが正しいのか全くわからなかったので、とりあえず好きな方を選んでさらに歩き続けました。
次第に木々がうっそうとしてきて道が少しづつわかりにくくなり、しかも異常な勾配の急斜面に鎖がかかっているような登山道になってきてしまい、さすがに不安はあったけど、初めての登山で早々に引き返すなんてダサい!と勘違いしてしまっていた僕は、ここは根性論だ!とガンガン突き進むことを選択しました。
ベテラン登山家との出会い
さらに進んでいくと、前方からチリンチリンという鈴の音が一定のテンポで聞こえてきます。間もなく反対方向から進んできた登山家の熊よけの鈴の音だということに僕は気づけましたが、向こうは鈴の音もなしに僕が突然現れたからむちゃくちゃ驚いている様子でした。
「こんにちは!」と軽く挨拶を済ませてから、こんな会話をしました。
──ベテラン登山家さん(以下、登さん)
こんなところで人に会うなんて本当に珍しいからびっくりしたよ!こんな危険ルートを来てるってことは何回もこのルートに来てる人なんかな?
──僕
いえ、はじめてなんです。よくわからずにここまで進んできました。とりあえずこの辺りで一番高い頂上に行きたいと思っているのですが…
──登さん
この比良山系のピークは武奈ヶ岳なんやけど、今の時間からブナを目指すのは無理と違うかな…。日があるうちに頂上に行けても帰りが夜になってしまうしホンマに危険やで。それにこの道は危険ルートやから、ホンマはあんまり使わんほうがいいんやで。
と言って、バックパックから地図を取り出し広げてから今の位置を指さして、さらに続けました。
山岳地図。地図の真ん中の点線ルートを指さしていました
──登さん
今の位置がここなんやけど、点線になってるやろ?他の道は普通の線になってるのがわかる?普通の線の登山道を使うことをおすすめするわ。点線の方は、遭難したり滑落したりする危険が高い!っていう意味で危険ルートを表してる。悪いことは言わんから今日はいったん下山して、また地図やコンパスを用意して朝から登り始めることをおすすめするわ。
──僕
そ、そうなんですか!!
話を聞き終わったあと、僕は急に怖くなりました。
知らず知らずのうちに自分が危険行為を犯していたこと、このまま登さんに会わずに進んでいたら、もしかして誰かに迷惑をかけたり、最悪死んでしまうかもしれなかったこと、しかもそれを全く理解していなかったこと、何よりも登山をなめていたということに心底気づかされました。
その日は内心、ここであきらめるのか?という根性論と危険を冒しているという思いで葛藤しつつも、すぐに下山してとりあえず日のあるうちに家に帰りました。家に帰ってから今日一日のことを冷静に振り返ってみて、やっぱり自分がしたことを反省して、二度と今日と同じことをしてはいけない!と心に誓いました。
登山の装備とルートを知る
この経験をもとに、事前準備のために僕は登山に興味のある友達を誘って休日に比良山系の山岳地図とコンパス、熊よけの鈴を買いに行きました。
登さんが言っていた「武奈ヶ岳」の位置を地図で確認して、地図のガイドに書いてある自分でも行けそうな初心者ルートをしっかりと調べてみました。
そもそも武奈ヶ岳に琵琶湖側からアプローチする登山道は、ほぼ中級~上級ルートであるということと、葛川・坊村の明王院の登山口からアプローチする道が一番わかりやすく初心者向けであることをこの時に初めて知りました。
比良山荘から見た、明王院の鳥居
葛川坊村の明王院周辺
また、山岳地図にはポイントからポイントへの区間毎を歩くのにかかる時間も書いてあります。しかも何気に防水加工まで施されています!
これらを見て学び、ただの地図にこれほどの情報が書かれていることから、登山は前もって準備や勉強をして臨まなければならないものであるということを強く痛感しました。
購入した比良山系の山岳地図
また、熊よけの鈴はもちろん熊を遠ざけるためにつけるものであると同時に、近くにいる登山家に自分の存在を示して、驚かせないようにする意味もあるということもネットで学びました。
こういったことをしっかり学び、準備したからこそ次の武奈ヶ岳登頂チャレンジは絶対成功させたい!という意気込みを強く持つことになりました。
武奈ヶ岳登頂チャレンジの日
その日、友達を迎えに行ってから葛川坊村・葛川市民センターの駐車場(無料)に車を停めていざ出発です。
葛川市民センターの駐車場。広くて無料で停められる
もちろん前の失敗を踏まえて、あさイチから歩き出します。
登山口にある比良山荘や明王院といった建物や周辺の雰囲気も非常に美しく、独特の世界観があるのでいきなりから感激して、歩きはじめからこの初登頂の日のドラマチックさを物語っているように感じられ、気分だけは意気揚々としていました。
比良山荘。噂では非常においしい高級料亭らしい
坊村から武奈ヶ岳へ向かう登山道の入り口
本当にワクワクしながら登山を始めましたが、開始10分ほどで強烈な違和感を感じ始めます。
周りの風景が高い木々ばかりでうっとうしい位に薄暗く、正直言って綺麗とはまったく思えない風景の上に、かなり急な勾配の坂を上り続ける超キツイ登山道が続くのです。
いつ終わるともわからないような地獄の道に嫌気がさし、息も乱れまくってゼェゼェ言いながら歩き続けました。
高い木々が茂る地獄ゾーン。友達ともども疲れまくり
友達ももちろんバテ気味で何度も休憩しましたが、休憩しても風景があまり良くないので癒しの効果もいまいち過ぎるほど弱く、休憩頻度も休憩時間もうなぎ上りに増えまくっていきました。
諦めることを考えながら登り続けて
こんな道が頂上まで続くだけなら、この登山に魅力なんて一切ない!あきらめて帰ろう!いっそこの前の危険ルートや上級者ルートの方が美しかったしそっちの方が良いのでは?とあれだけ心に誓った思いを簡単に破りそうになりながら、挫折感を感じまくっていた頃にいいタイミングで視界がまったく変わってきました。
木漏れ日と森の調和が神秘的な風景に
木々の種類がまったく変わり、背の高さも少し低くなり、そのおかげで微かな木漏れ日が入り、植物や登山道の見え方がまったく変わりました。
神秘的だと思えるほどの雰囲気の中で、森の美しさが際立って目立ちます。
更に勾配も緩やかになるため、景色を楽しみながらサクサクと進んでいけます。空気すらおいしく感じられて、さっきまでの苦しさや挫折感は何だったのだろう?と思えるほどの気持ちになり、友達との会話も増えて改めて一気に今回の武奈ヶ岳登頂チャレンジを楽しく感じられるようになりました。
ここからは本当に楽しい時間が続きます。
この辺りは下りの登山道も多く、体力を回復しながら進む
登山の楽しさへの目覚め
友達と普段の仕事の話やプライベートの話、つらかったこと楽しかったこと、思い出話も含めていろんな話をしながら風景や空気感も楽しみ、さらに今回のチャレンジが段々と前進している実感を持ちながらポジティブに歩き続けました。
前半の辛い道とは打って変わり、嬉しさや楽しさを感じているため時間の過ぎ方も早く感じられて、あっという間に稜線にまで到達しました。
稜線の景色もこれまでの景色とは打って変わり、背の高い木々はまったく無くなって低い植物ばかりになりました。
視界も開けるので周りの山々がはっきりと見れるようになり、空と雲、山や森とのコントラストが明確に感じられるようになります。場所によっては山々の間に美しい琵琶湖が見えることもあります。
これこそ登山!苦しみに耐えてよかった!とまだ登頂もしていないのに感じられるほどの素晴らしい景色です。
最高の景色との出会い
仁王立ちで景色を眺める友達2人。こう見えてもただの休憩中
はやくも感慨にふけりまくりながら仁王立ちで景色を拝んでいましたが、よく考えたらまだ頂上でもないし、実際今はただ休憩をしているだけの自分たちのことを自覚して、少し恥ずかしくなりながらも改めて歩き出しました。
とはいえ絶景と呼べる美しい景色に癒されながら、比較的歩きやすい道を進むことが出来るため、友達との会話も自分たちの心も面白いほど弾みます。
いよいよ頂上への最後のアプローチです。最後の難関とでも言うべき急勾配が続きますが、それでももはや目の前に武奈ヶ岳の頂上が見えています。
終わりが見えていれば、多少の苦労も何のそのです。
僕にとっては一度失敗を経てからの武奈ヶ岳登頂ですのでこの時は、あぁ!ついに武奈ヶ岳登頂チャレンジが達成できる!という、本当にただその一心でした。
たくさんの登山家がいる武奈ヶ岳頂上
頂上に到着すると、そこには「武奈ヶ岳山頂」と書かれた木が立っていました。天気は少し曇りだしてしまっていましたが、それでも絶景に変わりはありません。360度、邪魔をするものが何もない文字通りの比良山系最高峰です。
ついにやり切った!という強い達成感を感じながら、山頂の岩に腰かけて乱れた息を整えました。
登頂成功したが他の登山家の姿が気になる
段々と呼吸も落ち着き、気分も落ち着いて冷静になってきたころに、周りにいるたくさんの登山家たちに意識が向かうようになりました。
みんな各々山頂での過ごし方を楽しんでいるのですが、ひときわ僕の目に印象的に映ったのは、何やら見たことのない調理器具を使ってお湯を温めてラーメンを作り、それを食べている人たちでした。
「え、あんなことできるの?やってみたい!」純粋にそう思い、武奈ヶ岳登頂チャレンジ達成と同時に新たなチャレンジをすることを決意してその日は下山しました。
装備を揃えて再々チャレンジ
次の休日に好日山荘に行き、あの調理器具がクッカーとガスバーナーであることを知りました。一度登山を経験したということもあり、好日山荘に置いてあるさまざまな商品にも心を惹かれました。
コレは使いやすそう!コレは便利そう!このギアめちゃくちゃかっこいい!そんな風に思うものもたくさんありましたが、お財布事情があるのも事実です。今日の目的はクッカーとガスバーナーだと心に言い聞かせ、中でも持ち運びの袋とセットで割引セールを行っていたプリムスのものを選びました。
グレゴリーのバックパックとプリムスのクッカーセット
あとはインスタントラーメンです。好日山荘の帰りに自宅最寄りのディスカウントショップに寄り、そのお店で売っているもので最も安かったエースコックのワンタンメンを選んで買いました。これで準備は万端です。
あとは再度、武奈ヶ岳に上るだけです。
二度目の坊村~武奈ヶ岳ルート
二度目の武奈ヶ岳登山でも明王院の美しさに注目してしまう
二度目の坊村~武奈ヶ岳ルートは前回と比べて容易に感じました。
前半の登山道の辛さはもちろんあるのですが、全体の行程をすでに知っていることもあり、ここさえ抜ければ後は楽しく美しい後半戦だということを思いながら進みました。
道中の景色も一度目よりもしっかりと見れたし、組み立ても少し出来ました。
念願の武奈ヶ岳頂上ワンタンメン
二度目の武奈ヶ岳登頂をした後に、さっそくクッカーでワンタンメンを作ります。まずはお湯を沸かすのですが、待ちきれない思いがあったのでそれを待つのも一苦労に感じるほどでした。
ちなみに購入したクッカーは深鍋型のものなので、袋のインスタントであるエースコックのワンタンメンが鍋に入りきらない!というアクシデントもありましたが、乾麺を二等分に割ってしまえば茹でられることに気づき、すぐに実行しました。
このサイズでは鍋に入らない!ということに現地で気づいた…
ワンタンメンをぐつぐつと煮込み、粉末の調味料を入れるとむちゃくちゃおいしそうな香りがしてきます。いよいよ念願の武奈ヶ岳頂上ラーメン!といった気持ちです。
出来上がったワンタンメンを、クッカーに入れたまま一口すすると、口からくる味覚に脳がドデカい衝撃を受けました。
「え!?何このおいしさ!これがあのエースコックのワンタンメンか!?」
異常なほど何とも言えない絶妙な塩加減!こんなおいしいワンタンメンがこの世に存在するのか!これまでの人生でいまだかつて一度も食べたことがない神がかったおいしさ!これまで何度も食べてきたエースコックのワンタンメンはいったい何だったのだろう?純粋に心の底からそう感じてしまいました。
なんだかんだで体力的には疲れていたことや汗をかいていて塩分を欲していたこと、武奈ヶ岳の頂上で食べたというテンションもあったと思うのですが、人生で一番美味いワンタンメンを食べた瞬間でした。
初めての登山を終えて
keenの登山靴。かわいさとかっこよさが両立している
山での食事や会話、体験は非日常なものなので、より強くより特別な、楽しさ、おいしさ、大変さ、辛さを感じるところがあるのかな?と感じています。
武奈ヶ岳は多様な魅力に満ちた山です。初級者~上級者までが楽しめる多種多様なルート、楽しみ方があります。
僕が無知ゆえに犯してしまった危険を踏まえて同じ過ちを回避しながら、皆さんも安全で楽しくおいしい武奈ヶ岳登山と人生で一番美味いワンタンメンを感じてもらえればと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
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