登山者の間で最も人気がある千葉県の山といえば「伊予ヶ岳」で異論はないでしょう。山頂手前に待ち構える50mほどの断崖絶壁の鎖場がスリル満点、それでいて山頂からは360度大パノラマの絶景が広がり、僅か60分以内で登頂できてしまうという人気の理由も納得の山です。
今日はスリル満点なのに日帰り登山ができる低山「伊予ヶ岳」の登山コースをご紹介します。「高いところは苦手」という方や、いざ鎖場までたどり着いたものの「思っていた以上に断崖絶壁で登るのは無理!」となってしまった方のために、鎖場を避けたエスケープルートも併せてご紹介いたします。
目次
千葉のマッターホルンの異名を持つスリリングな低山「伊予ヶ岳」
千葉県南房総市にある「伊予ヶ岳(いよがたけ)」は、東関東自動車道館山線鋸南富山インターから車で10分。房総丘陵の山の一つでもある標高336.3mの山です。
山名の由来は、山容が愛媛県(伊予国)の石鎚山に似ていることから。伊予ヶ岳には、日本中の天狗が伊予ヶ岳山頂に集まったという天狗伝説もあります。
伊予ヶ岳は「南峰」「北峰」2つの峰からなる双耳峰で、岩肌が剥き出しになった断崖絶壁の峰が特徴です。その姿から「千葉のマッターホルン」「房総のマッターホルン」「千葉の妙義山」「安房の槍ヶ岳」などの異名を持ちます。
ちなみに山名に「岳」が付く千葉県唯一の山で、関東百名山に選定されています。
伊予ヶ岳は低山にも関わらず、山頂は360度パノラマビュー。「南峰」「北峰」どちらの峰からも、南房総の山々や東京湾、伊豆半島といったダイナミックな展望を楽しむことができます。特に南峰の断崖絶壁の岩峰から望む景色は圧巻です。
それでいて山頂まで40~60分で登頂できてしまうお手軽さと、冬場でも安心して登山が楽しめる立地は魅力でしかありません。しかも断崖絶壁のスリリングな岩登りまで楽しめてしまうとなると、山好きなら登るしかありませんよね。
「伊予ヶ岳」登山コース
伊予ヶ岳単体を登頂する場合、登山コースは2つあります。どちらも登山口は一緒で、違いは断崖絶壁の鎖場を使うか、安全な巻き道(う回路)を使うかです。
伊予ヶ岳登山口~伊予ヶ岳コース
- 平群天神社から鎖場を経由して山頂を目指す人気の最短コース
- 標高差約260m/片道約1km/徒歩約40分~60分程度
伊予ヶ岳登山口~嶺岡中央林道コース
- 平群天神社から迂回路を経由してを山頂を目指す遠回りのコース
- 標高差約260m/片道約2km/徒歩約65分~80分程度
伊予ヶ岳登山口から展望台のある分岐までは、どちらのコースも同じ登山道を歩きます。距離にして800メートル、標高差200m程度で緩やか。約30分~40分で到着します。
展望台のある分岐からは、どちらかのコースを選ぶことができます。
「伊予ヶ岳」の方向に進むと、標高差50m以上をよじ登る鎖場の岩登りが待ち受けています。山頂まで距離にして100メートル未満、10分程度で山頂に到着する人気の最短コースです。
鎖場は伊予ヶ岳登山の醍醐味ではありますが、想像している以上の斜度で90度近い断崖絶壁です。あまりにも斜度が凄いので登頂を断念される方もいるかもしれません。
高所恐怖症の方や、ビギナー登山者にもハードルが高いかと思います。
断崖絶壁の鎖場が厳しい場合、ちゃんと迂回ルートが用意されています。展望台の分岐にある「嶺岡中央林道」へ進むと、断崖絶壁の鎖場を回避して山頂を目指すことができます。その代わり山頂までの距離が約1200メートル、35分程度と、距離も時間も長くなります。
伊予ヶ岳は大変人気の山なので、休日ともなると本当に多くの登山客が訪れます。鎖場は危険なので原則1人づつ登ることになるのですが、登りも下りも同じ道を通るので、誰かが登り終えるか下り終えるまで待つ必要があり、運が悪いと大渋滞をします。
下山では迂回路を使ったほうが安全且つスムーズに下山ができるので、おすすめです。
ということで今日は、平群天神社から展望台にある分岐を目指し、断崖絶壁の鎖場を使って登頂。下山は「嶺岡中央林道」を使って混雑と危険を回避できる周回コースをご紹介いたします。
平群天神社登山者用駐車場→伊予ヶ岳登山口
最寄りの駐車場はどちらの登山コースも「平群天神社(へぐりてんじんしゃ)登山者用駐車場」です。
その名の通り、境内にある登山者用に開放された駐車場です。駐車可能台数は約20台。嬉しいことに無料です。トイレはありますが、自動販売機や売店がないので注意が必要です。
しかも半径10km圏内にコンビニが無いので大変不便です。筆者は登山道近くのお店で食材や飲み物を調達する予定でしたが、近隣に本当に何もなくて、慌ててお店を探す羽目になりました。
伊予ヶ岳に登るのであれば、買い物は事前に済ませておくことを強くお勧めします。
駐車場の傍には平群天神社(へぐりてんじんしゃ)があります。学問の神として広く信仰されている神社なんだそうですよ。神社の入り口には、市指定文化財の夫婦くすの木があります。
登山口は神社の奥にあります。車が通れる程の道で、立派な看板が立っているので迷うことはないと思います。
伊予ヶ岳登山口→展望台のある分岐
第一のチェックポイントとなる「展望台のある分岐」までは距離にして800メートル、標高差200m程度を約30分~40分かけて登ります。出だしは緩やかな登山道が続きます。
登山道は大変整備されているので歩きやすいです。道迷いの心配も無く、ハイキング気分で登ることができます。暫く緩やかな樹林帯の中を歩いていきます。
500メートル程度進むと富山の分岐に到着します。紛らわしい分岐で間違いやすいので注意が必要です。
直角に曲がって伊予ヶ岳方向を目指しましょう。富山を縦走される方は真っすぐ進みます。富山も人気の低山なので、伊予ヶ岳だけでは物足りないというかたは縦走にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
分岐がある場所はT字路のようになっているので、油断していると富山方面へ誘導されやすい導線になっています。特に下山の時は注意が必要です。筆者は下山時、間違って富山方向へ進んでしまいました。
富山の分岐から先は段々と傾斜がきつくなっていきます。伊予ヶ岳の登山道は反比例グラフのように序盤は緩やかで、山頂に近づくにつれ急こう配になっていきます。
階段も増えていき、段々ときつくなっていきますが、距離にして200メートル程度なので、すぐに展望台のある分岐が見えてきます。
展望台のある分岐に到着。東屋があるので休憩にはもってこいです。
展望台は大変見晴らしがよく、多くの登山客でにぎわっていました。
伊予ヶ岳山頂へ
いよいよ伊予ヶ岳最大の醍醐味でもある鎖場です。伊予ヶ岳の標識に従って進むと「ハイキングコースはここまでです。この先、大変危険ですので注意してください」の看板が視界にはいってきます。今までの登山とは別次元の予感がします。
写真では伝え切れないところが残念ではありますが、想像の斜め上を行く斜度です。断崖絶壁の鎖場が50mも続く伊予ヶ岳登山の核心部。
もし、この光景を見て登頂は厳しいと判断した場合、展望台にある東屋の脇にある「嶺岡中央林道」を進みましょう。距離にして約1200メートル、35分程度と遠回りになりますが、断崖絶壁の鎖場を回避して山頂を目指すことができます。
鎖場を進んだ場合、山頂まで距離にして100メートル未満、10分程度で山頂に到着します。その代わり標高差50m以上をよじ登る岩登りが待ち受けています。
鎖場は鎖ではなく、ロープです。なんでも有志の方が設置してくださっているんだそうです。岩場は大変滑りやすく、ロープ無しでは登頂は困難です。正直ここまで大変だとは思ってもいませんでした。
後ろを振り返ると、かなりの高度感です。高所恐怖症の方にとっては試練ではないでしょうか。特に下山でこのルートを使うのは本当に危険だと思いました。足を滑らせると大変なことになります。
山頂が見えてきましたが、直前まで本当に鎖場続きです。スリル満点で低山とは思えない、いつもとは違う登山を満喫できます。
伊予ヶ岳山頂「南峰」に到着です。標高336mの標識がありますが、実は「北峰」が最高峰です。低山とは思えない程スリル満点で、登りごたえのある楽しい道のりでした。
伊予ヶ岳「南峰」からの景色
伊予ヶ岳山頂は低山とは思えないほどの、360度パノラマビューが広がる絶景の山です。山頂は広くはありませんが、ベンチもあるので休憩が可能です。
特に岩がむき出しになった展望スポットは圧巻です。安全のための柵が設置してあります。混雑時は行列になること間違いなしの絶景スポット。
前方に見える山が富山です。双耳峰の美しい山容で思わず見とれてしまいます。奥のほうに愛宕山など南房総の山々を一望できます。
晴れた日には富士山も見えます。この日は残念ながら雲に覆われて見ることができませんでしたが、箱根の山や伊豆半島、相模湾越しに南アルプスの山々を一望できました。
反対側に目を向けると、若干木々に遮られはしますが、開けた展望でした。岩がむき出しになった展望スポットからの景色は開放感があります。
山頂標識の付近には案内図があり、どの方向にどんな山があるかが一目でわかるので便利です。
北側に目を向けると伊予ヶ岳「北峰」が見えます。こちらも展望が良さそうですね。早速向かってみましょう。
伊予ヶ岳最高峰「北峰」へ
伊予ヶ岳には2つの山頂があります。伊予ヶ岳北峰までは距離にして約100メートル、標高差20m程度。5分程度で到着します。
山頂手前にロープがありますが、そこまでの傾斜ではないので、ロープ無しでも登ることができます。
伊予ヶ岳山頂「北峰」に到着。山頂標識はなく、三角点のみですが、伊予ヶ岳の「北峰」こそ、標高336mの最高峰です。何故か「南峰」に標高336mの標識があるのは不思議ですよね。
南峰からの見晴らし同様、パノラマビューの絶景が広がります。南峰からの景色と大きな差は無いとはいえ、絶景に変わりはありません。
南側に目を向けると、先ほど登った伊予ヶ岳「南峰」が見えます。断崖絶壁の切り立った岩場で、大変美しい山容です。
下山
下山は「嶺岡中央林道」を使います。迂回路なので距離にして約1200メートル、20分程度かかりますが、伊予ヶ岳で同じルートを使って下山するピストン山行は、正直お勧めしません。
何故なら、登りと下りでは恐怖感が全然違います。鎖場は大変滑りやすく、足を滑らせると大変です。しかも人気の山なので、運が悪いと鎖場が大渋滞をします。かえって下山に時間がかかる可能性があるので、迂回路を使ったほうが賢明です。
迂回路は北峰を降りてすぐに左手に進み、樹林帯を歩きます。景観はゼロですが、木漏れ日の気持ち良い道のりです。
途中に滑りやすい急こう配の坂道が何か所かあるので、決して楽な下山ではありません。それでも断崖絶壁の鎖場を下るよりは何倍も楽です。
暫く下ると林道に出ます。標識があるので右手の天神社ルートを進みます。
開けた林道を進むと「桜の広場」の標識が見えてきました。この先には信じられない素敵なスポットがあるようです。
林道を登りきると広場が見えてきました。伊豆ヶ岳の南壁下にある広場で、信じられない位広大な広場でした。
桜の広場には河津桜の桜並木があります。テーブルやベンチもあるので、ゆっくり食事を食べるには最高のスポットではないでしょうか。きっと春には桜が咲き誇り、さらに美しい景色を見せてくれるんだと思います。
桜の広場を抜けると再び樹林帯です。暫く歩くと東屋が見えてきました。展望台のある分岐に到着です。
展望台のある分岐から先は、登りと同じルートを使って下山します。往復2時間で内容の濃い登山を満喫できる、人気の理由も納得の山でした。
伊予ヶ岳に登ってみてわかったこと
伊予ヶ岳は低山とは思えないくらいにスリル満点で絶景が広がる、登っていて楽しい山でした。伊予ヶ岳に登ってみてわかったことをまとめました。
【まとめ】
- 「千葉のマッターホルン」の異名をもつ「南峰」「北峰」2つの峰からなる双耳峰
- 山頂まで40~60分で登頂できてしまうお手軽さ
- 標高が低く、比較的温暖な気候なので冬場でも安心して登山が楽しめる
- 山頂手前に待ち構える50メートルほどの断崖絶壁の鎖場がスリル満点
- 鎖場は大変滑りやすく、ロープ無しでは登頂が困難なほどの斜度
- 大変人気の山なので運が悪いと鎖場が大渋滞をする
- 距離は長くなるが、下山では迂回路を使ったほうが安全且つスムーズに下山ができる
- 断崖絶壁の鎖場が厳しい場合、迂回ルートがあるので安心
- 山頂からは低山とは思えない360度パノラマビューの絶景が広がる
- 迂回路の途中にある「桜の広場」は桜が満開の広大な広場になっていて休憩でお勧め
- 登山口の半径10キロ圏内にはコンビニが無いので大変不便
- 富山の分岐が紛らわしく、下山の時に間違って富山方向に誘導されやすいので注意が必要
低山とは思えないスリルを味わえるお得感満載の山
伊予ヶ岳に登るまでは、ここまで内容の濃いダイナミックな山だとは思ってもいませんでした。はっきり言って想像以上に楽しい山です。「千葉のマッターホルン」の異名は伊達ではありません。
伊予ヶ岳は僅か60分以内で登頂できてしまうお手軽な山なのに、断崖絶壁のスリル満点な鎖場や、低山とは思えないダイナミックなパノラマビューが広がるお得感満載の山です。
ギア
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